お前、とうとう天に帰ったんだろう。
もともと天文は、お前と士元ほど詳しくないのだから、天文を見てそう思っているのではないさ。
たとえ詳しかろうとも、おれも今すっかり板づいて、天文どころではない。
昨日からずっと、胸騒ぎがする。士元の時と同じだ。
士元の時は、おれもまだ若いと言えた。
あの時はなぜか知らず、だんだんと居ても立ってもいられなくなり、直ちに届きもしない、そして届けるすべもない虚しい書簡を書いては捨て、心ここにあらぬ時間潰しをしていた。
そんな日を数日すごしたのちに、お前が益州へ向かい、荊州が手薄になったという急報で、府は沸いていた。
あの時の胸騒ぎと同じだ。
お前、先帝が崩御になったあと、六度もよくぞやった。
他の者や後世がどう評するかなど問題ではない。
その蒲柳の質で。きっと寿を磨り減らしてまでなおの北伐だったのだろう。
もしおれがそこにいたなら、もう止めろと言ってしまったかも知れない。
だが同時におれは、こたびこそ北伐が成ることを心から願っていた。
この二月に山陽公がおかくれになった今、成都から遷都がおこなわれ、ここの玉座から偽帝を放逐し、再び大地が漢に帰して、帝室の姓が劉に復することを祈っていた。
そして、お前にもう一度まみえて、確かめたかった。
おれが廿余年前にしたお節介は、お前の役に立ったろうと。
おれはお前ほど賢くないから、多分そうだろうとは思っても、お前の口からそうと聞いて、安心してこの世を去りたいと、心残りだった。
あの大戦の前、お前はお仕えしてまだ日が浅かったためなのか、それとも面映かったのかわからんが、はきと答えてはくれなかったではないか。
もう、聞かせてはもらえんのだな。それとも、再び会えたとしても聞かせてはくれんのか。
おれがあのお節介をやらかした時の、お前の、あの怒りを抑えた顔。今でも覚えている。
たしかに、頼まれもしないのにお前の居場所を先帝に教えたばかりか、お節介にもそれをお前に知らせに行ったわけだ。
でもな、反省はしたが、後悔などしていない。
お前の逆鱗に平然と触れられる者など、天下広しといえど、おれと先帝だけだったろ。
士元か。士元はあの通りだ。面倒くさがって、そんなことは初めからしやしない。
それにおれは、士元のように不精を装って見て見ぬふりをするような器用な真似はできやしない。おれはおれだ。
ただ、おれと先帝の違いはといえば、おれは逆鱗に触れてお前の珍しい怒り顔を見るのが関の山だが、お前は先帝のお手であれば、たとえ逆鱗に触れられたとしても、怒ることなどなかったのではないか。
お前が冴え渡る望月ならば、おれはかすかな蛍火だ。
だがな。
かすかな明るさを以てしてすら、歴然と分かる目に見えぬものが、この世には確かにあった。
お前を先帝に推挙したのがおれでよかった。
もし本当に九泉というところがあるのなら、ちょっと待っていてくれないか。
おそらくおれも、そう長くないから。おれの夢、叶えてくれよ。
ふたりして、手を取り合って、先帝のもとに馳せ参じたいのだ。
先帝はお気が長くお優しいから、昼寝でもしておれを待っていてはくれないか。
おれの生涯の友よ。
臥龍先生よ。
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��一言送信>→メールフォームからどうぞ。→◆ ※
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もともと天文は、お前と士元ほど詳しくないのだから、天文を見てそう思っているのではないさ。
たとえ詳しかろうとも、おれも今すっかり板づいて、天文どころではない。
昨日からずっと、胸騒ぎがする。士元の時と同じだ。
士元の時は、おれもまだ若いと言えた。
あの時はなぜか知らず、だんだんと居ても立ってもいられなくなり、直ちに届きもしない、そして届けるすべもない虚しい書簡を書いては捨て、心ここにあらぬ時間潰しをしていた。
そんな日を数日すごしたのちに、お前が益州へ向かい、荊州が手薄になったという急報で、府は沸いていた。
あの時の胸騒ぎと同じだ。
お前、先帝が崩御になったあと、六度もよくぞやった。
他の者や後世がどう評するかなど問題ではない。
その蒲柳の質で。きっと寿を磨り減らしてまでなおの北伐だったのだろう。
もしおれがそこにいたなら、もう止めろと言ってしまったかも知れない。
だが同時におれは、こたびこそ北伐が成ることを心から願っていた。
この二月に山陽公がおかくれになった今、成都から遷都がおこなわれ、ここの玉座から偽帝を放逐し、再び大地が漢に帰して、帝室の姓が劉に復することを祈っていた。
そして、お前にもう一度まみえて、確かめたかった。
おれが廿余年前にしたお節介は、お前の役に立ったろうと。
おれはお前ほど賢くないから、多分そうだろうとは思っても、お前の口からそうと聞いて、安心してこの世を去りたいと、心残りだった。
あの大戦の前、お前はお仕えしてまだ日が浅かったためなのか、それとも面映かったのかわからんが、はきと答えてはくれなかったではないか。
もう、聞かせてはもらえんのだな。それとも、再び会えたとしても聞かせてはくれんのか。
おれがあのお節介をやらかした時の、お前の、あの怒りを抑えた顔。今でも覚えている。
たしかに、頼まれもしないのにお前の居場所を先帝に教えたばかりか、お節介にもそれをお前に知らせに行ったわけだ。
でもな、反省はしたが、後悔などしていない。
お前の逆鱗に平然と触れられる者など、天下広しといえど、おれと先帝だけだったろ。
士元か。士元はあの通りだ。面倒くさがって、そんなことは初めからしやしない。
それにおれは、士元のように不精を装って見て見ぬふりをするような器用な真似はできやしない。おれはおれだ。
ただ、おれと先帝の違いはといえば、おれは逆鱗に触れてお前の珍しい怒り顔を見るのが関の山だが、お前は先帝のお手であれば、たとえ逆鱗に触れられたとしても、怒ることなどなかったのではないか。
お前が冴え渡る望月ならば、おれはかすかな蛍火だ。
だがな。
かすかな明るさを以てしてすら、歴然と分かる目に見えぬものが、この世には確かにあった。
お前を先帝に推挙したのがおれでよかった。
もし本当に九泉というところがあるのなら、ちょっと待っていてくれないか。
おそらくおれも、そう長くないから。おれの夢、叶えてくれよ。
ふたりして、手を取り合って、先帝のもとに馳せ参じたいのだ。
先帝はお気が長くお優しいから、昼寝でもしておれを待っていてはくれないか。
おれの生涯の友よ。
臥龍先生よ。
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