「あーあ、今年も結局、本気チョコが義理で帰ってきたか・・・」
メイド派遣会社『錦官城』に奉職して長い、
「私設 趙さまファンクラブ」の、部長といったポジションの
通称 ”姉御” の お;局は、賃貸マンションの居間で、
花柄のラッピングをされた菓子箱を眺めていた。
ホワイトデーの晩御飯は、一律に同じ菓子箱を手にした
ファンクラブの面々と共に、消沈しながら済ませたばかり。
ホットカーペットの上に横座りして、クッションを抱きながら、
お茶を啜って、眠るには早く、テレビを視る気にもならず、
ぼんやりと過ごしていると、卓の上で、携帯電話が鳴った。
「何だぁ、坊か」
ディスプレイを開いて弄ると、案の定、
”件名:姉さん、大変です”
と、大学の後輩である弟分からの、定番のメールが入っていた。
姉御は、当時ゼミ長としても”姉御”と、同期や後輩に
男女の別なく、いまだに頼りにされている。
「ホテルで、まぁーた何かあったのかね、いいヤツなのに、
融通きかないんだから、アイツ・・・えっ!」
スクロールした本文に、度肝を抜かれる。
”姉さん、大変です。今、夜勤中ですけど、
スイートに、姉御んとこの公叔が泊まりに来てる・・・!
公淑の白猫って誰デスカ
俺、何か失礼したかも・・・orz”
公叔の、二度目の変換が「淑」になってしまっている時点で、
慌てぶりが伝わってくる。
「うっそ!それって、絶対先生でしょ!」
ガバと起き上がり、即、「返信」ボタンを押して、
>>Re:姉さん、大変です
>>まず落ち着け。質問に答える前に確認するが、
>>その猫を見たのか。失礼の内容は。姉御
と、返信してやる。
なかば、いらいらと返信を待つ間に、
メイド仲間のオフレコメーリングリストを選び、
”緊急速報。公叔が今、某老舗ホテルに先生とお泊りらしいよ 姉御”
と、メールを配信した。
弟分の返信より先に、矢継ぎ早に着信音が鳴り、
>>嘘、ほんと、姉御!
>>詳細キボン
>>情報ソースは?
>>今日の昼間、お二人を劇場で目撃しましたよ
>>うわーなにこのライブ感覚!
と、次々とメールが入ってくる。
「えっ、昼間デートしてたの?やるわね公叔」
俄かな展開に、姉御は座りなおす。
ようやく、弟分から、変換ミスをまじえた、
斯く斯く然然というメールが帰ってくる。
「ふーん何だ、ちょっと担がれたようなもんじゃないの・・・。
あっ、でもなあ、明日の朝、またテンパっても可哀相か」
>>>Re:Re:Re:姉さん大変です
>>>事情はわかった。失礼にはあたらない。気にするな。
>>>なお白猫は、公叔の一番大事な人だ。
>>>雌猫ではないから、心して、何を目撃しても動じるな。
>>>とりあえず、明日の朝の厨房のチーフをチェックしとけ。
>>>a.s.a.p.すぐ返信しろ。姉御”
続いてメーリングリストへも
>>昼間の目撃情報乙。情報源は某ホテル勤務の知人。
>>公叔の部屋に加湿器を運んだらしい。なお、先生の姿は未確認 姉御
と、手短かに送信する。
ややあって、またけたたましいほどに着信音が鳴り、
>>>加湿器!先生の必須アイテム!
>>>お泊り確定
>>>それって寝室ですよね、ですよね
>>>スイートですか姉御
>>>わざわざ外泊!!
>>>明日、シフト入ってるんですけど、まともに勤まるか不安
皆、賑やかに、想像もたくましく、メールを送りつけてくる。
>>>>皆、鋭いな、スイートの寝室に運んだらしい。
>>>>勤務者はその際に失態があったと思い込んでいるので
>>>>明日のシェフのチェックを命じておいた。姉御
>>>>>さすが姉御!明日は絶対ルームサービスしかありえませんよね
>>>>>先生は、そゆことあったらしい次の日は、ふわふわしたやつじゃないと
>>>>>のど越しがよくて、味が薄いヤツね
>>>>>お茶も大事
>>>>>気の利いたシェフじゃないとダメ
>>>>>ちょっとみんな、そゆことじゃないかもしれないじゃん。
>>>>>何言ってるの、ないほうが不自然
>>>>>わざわざ外泊って段階でもう確信犯だよ
>>>>>あるに一票
(みんな、わかってるわねぇ)
ディスプレイを見て、くすくすと笑う。
そこへ、ようやく弟分から続報が着信する。
>>>>Re:Re:Re:Re:Re姉さん大変です
>>>>姉さん、明日の朝の厨房はムッシュ伯奢です。
>>>>俺、それからどうしたら・・・
「よし、御もてなし命!の鉄人・ムッシュ伯奢か。磐石だな」
新規作成
件名:明日に備えろ
本文:
いいか、明日の公叔は、九分九厘、ルームサービスの電話をかけてくる。
ムッシュ伯奢に、「お連れ様はお体が弱くて、今朝は咽喉が痛むご様子です」
とでも報告して、 なるべく軟らかい、のど越しのよさそうな、淡白なものを、
少しずつ、数多く献立して、お届けしろ。それでお前の思っている失態は
おそらく帳消しだ。お茶はぬるめに。猫だけに猫舌だ。
なお、チェックアウトは定刻までにはありえないと思え。それは猫の調子次第だ。
明晩の予約が入っているなら、別室を繰り回しておけ。抜かるなよ 姉御”
メイド派遣会社『錦官城』に奉職して長い、
「私設 趙さまファンクラブ」の、部長といったポジションの
通称 ”姉御” の お;局は、賃貸マンションの居間で、
花柄のラッピングをされた菓子箱を眺めていた。
ホワイトデーの晩御飯は、一律に同じ菓子箱を手にした
ファンクラブの面々と共に、消沈しながら済ませたばかり。
ホットカーペットの上に横座りして、クッションを抱きながら、
お茶を啜って、眠るには早く、テレビを視る気にもならず、
ぼんやりと過ごしていると、卓の上で、携帯電話が鳴った。
「何だぁ、坊か」
ディスプレイを開いて弄ると、案の定、
”件名:姉さん、大変です”
と、大学の後輩である弟分からの、定番のメールが入っていた。
姉御は、当時ゼミ長としても”姉御”と、同期や後輩に
男女の別なく、いまだに頼りにされている。
「ホテルで、まぁーた何かあったのかね、いいヤツなのに、
融通きかないんだから、アイツ・・・えっ!」
スクロールした本文に、度肝を抜かれる。
”姉さん、大変です。今、夜勤中ですけど、
スイートに、姉御んとこの公叔が泊まりに来てる・・・!
公淑の白猫って誰デスカ
俺、何か失礼したかも・・・orz”
公叔の、二度目の変換が「淑」になってしまっている時点で、
慌てぶりが伝わってくる。
「うっそ!それって、絶対先生でしょ!」
ガバと起き上がり、即、「返信」ボタンを押して、
>>Re:姉さん、大変です
>>まず落ち着け。質問に答える前に確認するが、
>>その猫を見たのか。失礼の内容は。姉御
と、返信してやる。
なかば、いらいらと返信を待つ間に、
メイド仲間のオフレコメーリングリストを選び、
”緊急速報。公叔が今、某老舗ホテルに先生とお泊りらしいよ 姉御”
と、メールを配信した。
弟分の返信より先に、矢継ぎ早に着信音が鳴り、
>>嘘、ほんと、姉御!
>>詳細キボン
>>情報ソースは?
>>今日の昼間、お二人を劇場で目撃しましたよ
>>うわーなにこのライブ感覚!
と、次々とメールが入ってくる。
「えっ、昼間デートしてたの?やるわね公叔」
俄かな展開に、姉御は座りなおす。
ようやく、弟分から、変換ミスをまじえた、
斯く斯く然然というメールが帰ってくる。
「ふーん何だ、ちょっと担がれたようなもんじゃないの・・・。
あっ、でもなあ、明日の朝、またテンパっても可哀相か」
>>>Re:Re:Re:姉さん大変です
>>>事情はわかった。失礼にはあたらない。気にするな。
>>>なお白猫は、公叔の一番大事な人だ。
>>>雌猫ではないから、心して、何を目撃しても動じるな。
>>>とりあえず、明日の朝の厨房のチーフをチェックしとけ。
>>>a.s.a.p.すぐ返信しろ。姉御”
続いてメーリングリストへも
>>昼間の目撃情報乙。情報源は某ホテル勤務の知人。
>>公叔の部屋に加湿器を運んだらしい。なお、先生の姿は未確認 姉御
と、手短かに送信する。
ややあって、またけたたましいほどに着信音が鳴り、
>>>加湿器!先生の必須アイテム!
>>>お泊り確定
>>>それって寝室ですよね、ですよね
>>>スイートですか姉御
>>>わざわざ外泊!!
>>>明日、シフト入ってるんですけど、まともに勤まるか不安
皆、賑やかに、想像もたくましく、メールを送りつけてくる。
>>>>皆、鋭いな、スイートの寝室に運んだらしい。
>>>>勤務者はその際に失態があったと思い込んでいるので
>>>>明日のシェフのチェックを命じておいた。姉御
>>>>>さすが姉御!明日は絶対ルームサービスしかありえませんよね
>>>>>先生は、そゆことあったらしい次の日は、ふわふわしたやつじゃないと
>>>>>のど越しがよくて、味が薄いヤツね
>>>>>お茶も大事
>>>>>気の利いたシェフじゃないとダメ
>>>>>ちょっとみんな、そゆことじゃないかもしれないじゃん。
>>>>>何言ってるの、ないほうが不自然
>>>>>わざわざ外泊って段階でもう確信犯だよ
>>>>>あるに一票
(みんな、わかってるわねぇ)
ディスプレイを見て、くすくすと笑う。
そこへ、ようやく弟分から続報が着信する。
>>>>Re:Re:Re:Re:Re姉さん大変です
>>>>姉さん、明日の朝の厨房はムッシュ伯奢です。
>>>>俺、それからどうしたら・・・
「よし、御もてなし命!の鉄人・ムッシュ伯奢か。磐石だな」
新規作成
件名:明日に備えろ
本文:
いいか、明日の公叔は、九分九厘、ルームサービスの電話をかけてくる。
ムッシュ伯奢に、「お連れ様はお体が弱くて、今朝は咽喉が痛むご様子です」
とでも報告して、 なるべく軟らかい、のど越しのよさそうな、淡白なものを、
少しずつ、数多く献立して、お届けしろ。それでお前の思っている失態は
おそらく帳消しだ。お茶はぬるめに。猫だけに猫舌だ。
なお、チェックアウトは定刻までにはありえないと思え。それは猫の調子次第だ。
明晩の予約が入っているなら、別室を繰り回しておけ。抜かるなよ 姉御”