「大人の情景」 おねだり

2008/11/13

21cパラレル(大人の情景 劉公叔の物語(21世紀)

「もしもし雲長か、儂だ。今日の飯だが、19時にしよう。 
お客人を招きたいからな・・・8人で頼む。 
む、水鏡先生とお弟子と、孔明先生だ。 
うん。縁起がよかろう。8人など久しぶりじゃ。

 翼徳にかわれ。 ああ、翼徳。
 よしよし、わかったわかった。もうちょっと受話器を離して喋れ。
 儂は直接ここから桃園飯店にゆくから、迎えはいらん。
 かわりに禅をつれて来い。

 近くに子龍はおるか?かわってくれ。
 おお、常山の。忙しいところすまんが、客間にお客人をしばらくお泊めしたい。
 用意を頼む。む、お一人だ。うんうん、よきに計らえ。任せる。
 そうだな、お前も今日から次の間に詰めなさい」

 善は急げだよ、と、有無を言わせない迫力で、
「外泊ではなく、外出の準備だけ。必要なものはあとで取りに来させます」
と、生徒のうちの一人にすきなかったはずの彼は、
急に主導権を握って、玄関で先生を待ちながら、
弟分どもに、何やら、指示する電話をかけている。

束の間、玄関が静かになったと思うと、そのあと、少しあらたまった口調で、
「もしもし、劉です、禅がいつもお世話になっております。
 いやいや、不肖の倅で。
 蛙の子は蛙といったところですな、お恥ずかしい・・・。
 ときに先生、急なお誘いですが、今晩ご予定が他にありませんでしたら、
 ぜひ一席ご一緒ねがえませんでしょうか。
 先生のお好きな酒が、解禁になりましたでしょう、
 はい、はい。もちろん、お弟子もご同伴ください。禅が喜びます。
 おおそうですか。有難い。御存知ですか、桃園飯店。
 ええそうです、一本入ったところの。
 お迎えにあがりましょうか?
 そうですか、では19時に、お待ちしております」

彼の身内について、先生は、子息しか知らない。
彼のことも、水鏡先生を通して聞く話しか知らない。

さらに、いきなり、劉家の面々と顔を合わせる前に、
共通の知人である水鏡先生を招いて、急遽一席設けるとは、
おっとりと、もしかしたら鈍いのではないかという
印象すら与えるような、平素の彼からは
想像できない周到な、しかも電光石火な一面に、
先生はその象牙細工のような耳を驚かせていた。 

「さあ、行きましょう」
彼の言うことに素直にしたがって、ほとんど手ぶらの
先生の姿に満足してから、
彼は
「飯の前に、お茶でもお付き合い願えますかな」
先生の眸のなかに、まだ不安が揺れているのを見逃さずに、
態と甘えて見せた。



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