「大人の情景」 怖がらせ

2008/11/13

21cパラレル(大人の情景 劉公叔の物語(21世紀)

うを と みづ について ! 微エロな表現を含んでおります ! 飛ばしても、おとぎばなしに影響ありません。

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「怖がらずともよい・・・と言うても、無理というものなのだろうな」

もちろん、彼に元来そのような趣味はない以上、
彼としても初めてに相違ないのだが、
それを言っても、さらに怖がらせるだけである。

”そのような趣味はない”はずだというのに、
同性にしては、歳が離れているだけにしては華奢にすぎる
想い焦がれた其の人を腕の中にして、
息遣いを見て感じているだけで、性別も忘れて、
いま煽られているのも、男の性というものなのか、
まだ、思い込んでいた程には枯れていなかった自分に、
彼は、すこし驚いていた。

「公叔に、怖いものはないのですか」
硬直した十指すべての先の
ひとつひとつに、唇を寄せてから、
真新しい銀色の指輪が嵌った右の薬指を執拗なほどに構っていると、
掠れた小さな聲で、問いかけられて、
このような場合、『お前を失うこと』などという本音のひとつは、
かえって無粋であることぐらいは心得ている彼は、
「歯医者、じゃな」
と、まじめそうな顔をして、
わざと、子供のようなことを言ってやると、
「まさか」
先生は、初めて笑った。

「それから、ベッドの上で、『公叔』は、やめなさい」
先生の白い貌に、みるみる色が差す。

この天才は、こちらの方は全く疎いのだろうか、
ちょっと言い過ぎてしまったのは、確かなようだ。
「これ、そのような貌をすると」
頤に巨きな掌を添えて、拇指で下唇をなぞりながら、
徐に貌を近づけて
「理性が、吹っ飛ぶではないか」
唇のすぐ傍で、そう囁くと、何か言おうとした先生の言を
塞いでしまった。

もう長いこと、口づけなどしていなかった。
はじめは、おそるおそる、小鳥のように、
それから、だんだんと、飴を舐めるように、
そしてそのまま、ゆっくり横たえてしまった。

先生は、初めてだったのかもしれない。
驚いたのか、怖がったのか、
堪え切れなかった曇った聲を零しながら、
本能的な拒否なのか、彼をたびたび押しのけようとする
そのほっそりとした腕を、意思で律していたのが分かった。

口づけひとつで、白い彫像のように固まられては、
彼としては困り果てるばかりである。
「怖がらせてしまったかな」
双眸を、必要以上に、ぎゅっと瞑っていた先生が、
彼の聲に、おそるおそる眸をひらいて見上げた。

これからどうなるのか、
おそらく、この天才は、ほとんど知らないのだ。

知っていても、たとえば映画のように、
3分乃至5分で終わってしまうことだと思ってはいまいか。

怖くないというならば、嘘か強がりに決まっている。

彼は、体重を掛けないように注意深く
そっと覆いかぶさって、白い額を撫でて、
「では、もう一度、同じことをしてつかわそう」
予告どおりに、先ほどと同じような、
長い長い口づけをかわしてから、唇をほどくと、
先生は、伏目がちに、吐息をついていた。
人は、一度経験したことを恐れることは、少ない。

「怖くは、なかったであろう」
息さえも止めるかのようにしていた、先ほどよりは、
こわばりを解いてくれた先生を認めながら、
いちいちこのようなことを訊いている自分は、
いつぞや言った、まさに「狒狒爺」そのものではないか、と
可笑しく思いつつ、
(だが、これでは始まらんな)
先生の両手が、胸のあたりで、ぎゅっと握られているのを
ちらりと見咎めて、これでは始まらないというのに、
たまらなく、いとおしさが募る矛盾を覚える。

(いや、始まらなくとも、構わぬか)
さすがに人生経験豊富な大人の男である彼は、
もしも青二才であったなら、ありえないような、
選択肢を思いついた。

間近に貌を寄せて、天才らしくなく泳ぎっぱなしの
目元に唇を落としながら、誘いをかけてみる。
「儂の名を、呼んでごらん」
できません、と言うかわりに、
また双眸を貝のように閉じて、僅かに頸を幾度も左右に振る
先生に、くつくつと、喉の奥で苦笑いをして、
象牙細工のような耳に、ぴったりと口をつけると、
わさと低めた聲を、注ぎ込んだ。

「呼ばずには、いられなくなるが、よいか、孔明」

鼓膜の底を震わせた其の聲が、全身を駆け巡って、
うるんだ眸を見開いて、再び言葉を失ってしまった先生の唇を奪うと、
彼は、今度こそ、円熟した大人の男だけが為し得る、
蜜のような、息も絶えそうなほどの口づけを与えて、
”玄徳さま”
と音を上げたなら、今宵はそこまでで許してやるつもりで、
余裕たっぷりに甘さを味わっていた。

(あくまでも、「つもり」なのだがな)



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