菓子は餡入りの、上品にひとくちに丸めた白胡麻の団子と、黒胡麻をまぶした薄い塩味の煎餅と、梅の実の漬けたものを揚げて盛り合わせてあり、どれも香ばしくそして温かい。
今日の花茶は菊であるらしいが、やや渋いはずの風味が和らいでいるのは、
他にも花を混ぜて調えてあるようであった。
「揚げた梅など、儂ぁ、初めて見たぞ」
「左様でございます」
「弟御に、教えて進ぜたらよい。儂も、三妹に教えよう」
彼は、隆中で今もかわらず留守を守っている、龍の賢弟を懐かしんで言うた。諸葛家の末弟は、次兄の軆の弱さに特に応じた、滋養のある淡い食餌を作ることが特技である。
しのびやかに低く言葉を交わしていると、拍手や指笛の如きのさざめきが、
階下から、だんだんと彼らに近づいてくる。
喝采を浴びる一団はそれぞれに楽器を小脇に、彼らの卓へとやってくると、揃って一礼し、
「旦那様、若旦那様、ようこそいらっしゃいました。しばしの座興に、お耳汚しをば……」
かろうじて簪にたえる申し訳程度の薄い髷を結った髪の白い老爺が、揉み手をして口上を述べたので、
「かねてより評判は聞き及んでおる。ぜひ一曲、所望いたそう」
彼はおっとりと応じ、このような場合には、後ほど祝儀を遣わすべき倣いを心得ている風情をみせた。
「ご希望の曲がございましたら、なんなりと」
「儂ぁ、疎い。若旦那に聞いてくれ」
彼は、余の者に『若旦那』を言って聞かせたいらしく、傍らの龍へ水を向けた。
老爺の柔らかな視線が移ったので、
「……なにか、我らが君をことほぐような」
龍は、音曲についての造詣を少しも誇らず言葉少なく応じた。
「かしこまりました」
老爺は心得たように一礼して、楽士どもへ向き直り、
「『舜典』」
と囁くと、紐で背にしていた二胡を構えて、楽の音の中へ加わった。
二胡三人、琵琶一人、月琴一人、笛一人に囲まれ、繊月のような眉をした美少年の歌手が、高い聲で歌い始める。
いにしえのすめらみことの大舜を
たたえて重華と申しあぐ
ふかくあかるき理智そなえ
堯の心に協(かな)ひ給う
玄徳のぼり聞こゆれば
まつりごとをぞ為し給う
途端に、帳の向こうの並の卓で、楽の音のおこぼれに与る者どもから、
「歌や好し!」
「好いぞ!」
と、やんやの声がかかっている。
『書経』の字句をひいて、今様ともいうべき調べにのせて、聖道を説く堅苦しさや、儀礼的ないかめしさを脱ぎ捨て、驚くほどに軽快で、踊りだしたくなるほどの音色である。
それは、襄陽のあるじがここに座っていることを知りもせず、彼を讃えているとも聞こえ、そして、禁句のはずの「協」をあえて堂堂と歌うことに、遥けくまします帝への敬意を込めたともみえた。
(おや、まだ子供ではないか)
彼は、笛を吹く童が少女で、髪を左右に団子に結いあげて、歌う少年の傍らにぴったりとついて、その蔭で吹くようにしているのをみつけて、それが微笑ましく、頬を緩めた。
ふと隣の我が龍の気配を追うと、どうも目頭を袖で抑えている。
(いつもの、あれか。逆さ睫か)
彼は、このような場合、あまり大袈裟に構われることを好まない龍を察して、知らぬふりを装ったが、黒い袖が左右の眸をともに抑えたようだったので、
また別な気がかりを含みながら巨きな耳を傾けていた。
一曲が終わり、帳の外で湧いた拍手にあわせて、彼も大きな掌を打ち合わせ、
「ついぞ、聞いたこともない。面白き楽曲じゃった。楽長どの、近う。……少ないが、あとで皆の祝い酒に」
と、差し招く。
「これはこれは過分な。新年早々、運が向いて参りました」
小さな銀の粒を皺の寄った手の上に認め、酒に酔ったような表情を浮かべた。
「それからな、そこな笛の子にな、これを」
彼は蓋碗の蓋をとりあげて、蓋裏の水滴を袖口の内側で拭い、懐中から何か取り出すと、掌から零してカラカラと乾いた音を立てて受け、差し出した。
「はは、これは可愛いお捻りを」
老爺はただの祖父という顔にかわり、受け取った蓋ごと、笛の少女に手渡した。
蓋の上のものを覗き込んでから、もの問いたげに少女が歌の少年を見上げて、
「わあ、きっと星の飴だよ、こんなにいっぱい」
との応えを聞くや、ぱっと瞳を輝かせると、ぴょこんとお辞儀を返してから、
また恥ずかしげに歌の少年の陰に隠れてしまった。客商売にしては、随分とはにかみ屋である。
「足るならば、あとは二階で一曲、一階で一曲、皆の衆に振舞うてやってくだされ」
彼は、あまりのんびりとは出来ぬこの後の都合を勘案してそう言ったのだが、
楽士どもも、それを小耳に挟んだ帳の外の客も
『気前の良い旦那だ』
『ありゃ、どこの旦那だえ』
と、言いたげな、それとも実際に囁きあっているような雰囲気が急におもはゆく、
「儂ぁ、この若旦那と、ちと話があるゆえな」
と濁して笑んだ。
「おありがとうございました。ではまたのお越しを」
一団は一礼してから帳の外に出、
「さあさあ、皆の衆、旦那様の奢りだ! 何がいいかね」
「『桃夭』!」
「否、『撃鼓』。あれは泣ける」
「待て待て、挙手で決めようぞ」
賑やかな採決に続いて、伝統に囚われない自由な節回しが自在に続くのであった。聴衆も、ただ珍奇を衒った新しい音楽を流行として歓迎しているのではなく、少なくとも二階に集っている者どもには、伝統の良きも悪しきも一通り心得た上で、このような音曲の発生を喜んでいるという、耳の肥えた風情が漂っている。
楽団が階下へ去ったあとには、即興と思われる詩の朗詠も聞こえ、
皆、快哉という明るい賑わしさである。
ここは単に美酒を飲み茶を喫し菓子を食うばかりの場所柄ではないことが受け取れた。郁郁たる文の雰囲気である。
「襄陽は、まこと、よい。世は、四角四面であってはよくない。適当に、丸みや凹凸がなければ」
「はい」
我が龍が国事以外については寡黙なことに彼は慣れていたが、どこか優れぬのかと彼はそれとなく注意を払いながら、茶を飲み干した。
それに気づいた龍は、何ごともないことを伝えんとするように、明るい聲音で問うた。
「我が君は、その菓子をなぜ今日」
「孔明。儂は今、『旦那様』だが」
「……星の飴を、なぜお持ちなのですか」
星の飴とは、城下で評判の菓子舗の人気商品である。
親指の爪ほどの、球形をした一面に、角が生え揃ったような形状の飴で、
はじめは別の名前で売り出していたのだが、誰が言い出したか、今や星の飴で通っている。
廉きから高きまで、一粒から売るので飛ぶように売れ、日が中天にかかる頃には売り切れるのである。
彼の三弟の妻女は料理が得手であり、襄陽に腰を落ち着けてからというもの、菓子作りに凝るようになり、この人気商品を真似て作って、
「松の実を芯にして、生姜味で作ってみました。うちの人が、大兄の大事な軍師様は、冬によく喉をお痛めで気の毒がっておりますので……。星の飴『もどき』ですけど」
と、暮れに届けてきたもので、彼の私室の卓の上の、陶製の蓋物の中に
詰まっているのだ。
「お前に障りがあるときに役立たねば、三妹が落胆するだろうぞ。重いものでもなし」
どうやら、外出時には銭金とともに当然のように懐中していたらしきことを、
彼はこともなげに明かした。
「旦那様、ありがとうございました」
「旦那、若旦那、お気をつけて」
「またのお越しを」
「おーい、旦那様がたのお帰りだぞ」
店の者だけでなく、集う客にまで送られる、『気前のよい旦那の親子連れ』の気配を物陰から見送り、左右の髪を団子に結った少女は、裏庭に少年と並んで腰掛け、星の飴を分け合っていた。
ふたりは、眉がよく似ている。
少女が、少年の掌に、小さな人差し指でなにかしたためると、
「そうだね、耳が大きな旦那様だったね。楽の音もよく聞こえるのかもしれないね」
良く似た眉をひらいて、少年が微笑んで応じる。
少女はニコと笑うと、また少年の掌に何か書き付ける。
「ふふ、『うさ耳の旦那様』か。こんなご褒美、初めて貰ったね。またお越しだといいけれど……」
小さな庭の植え込みの山茶花の花びらがはらはらと落ちたのを、少女は目ざとくみつけて、飛んでいこうとするので、美少年はそれをおしとどめ、
「あっ、こら。ちょっと『あーん』してごらん」
素直に口をあけた少女の舌の上に飴をみとめて
「花遊びは、飴が終わってから。喉に引っ掛けたりしたら、花びらどころじゃなくなっちゃうよ」
と、優しく窘め、
「それに、お前に何かあったら、誰が笛を吹く? いつも元気で、しっかり稼げるように、注意しなくちゃ。お前だって、一日でも笛が吹けなきゃ、悲しいだろう?」
大人びた口調で諭すのだった。
小さな頭に乗せたお団子をコクコクと頷かせて、少女はおとなしく少年の隣りに掛けなおした。
足をぶらぶらとさせながら、ふと思い出したのか、また少女は少年の袖をひいて、その掌を両手にとると、指先でなにかしたため、同意を求めるように見上げた。
「……うん。悲しい歌じゃなかったのにね。若旦那様は……。どうして涙ぐんでいたんだろうね」
うさ耳の旦那様が、この襄陽の城主で、若旦那様がその軍師であるとは、まだ誰も気づいていないのだった。
今日の花茶は菊であるらしいが、やや渋いはずの風味が和らいでいるのは、
他にも花を混ぜて調えてあるようであった。
「揚げた梅など、儂ぁ、初めて見たぞ」
「左様でございます」
「弟御に、教えて進ぜたらよい。儂も、三妹に教えよう」
彼は、隆中で今もかわらず留守を守っている、龍の賢弟を懐かしんで言うた。諸葛家の末弟は、次兄の軆の弱さに特に応じた、滋養のある淡い食餌を作ることが特技である。
しのびやかに低く言葉を交わしていると、拍手や指笛の如きのさざめきが、
階下から、だんだんと彼らに近づいてくる。
喝采を浴びる一団はそれぞれに楽器を小脇に、彼らの卓へとやってくると、揃って一礼し、
「旦那様、若旦那様、ようこそいらっしゃいました。しばしの座興に、お耳汚しをば……」
かろうじて簪にたえる申し訳程度の薄い髷を結った髪の白い老爺が、揉み手をして口上を述べたので、
「かねてより評判は聞き及んでおる。ぜひ一曲、所望いたそう」
彼はおっとりと応じ、このような場合には、後ほど祝儀を遣わすべき倣いを心得ている風情をみせた。
「ご希望の曲がございましたら、なんなりと」
「儂ぁ、疎い。若旦那に聞いてくれ」
彼は、余の者に『若旦那』を言って聞かせたいらしく、傍らの龍へ水を向けた。
老爺の柔らかな視線が移ったので、
「……なにか、我らが君をことほぐような」
龍は、音曲についての造詣を少しも誇らず言葉少なく応じた。
「かしこまりました」
老爺は心得たように一礼して、楽士どもへ向き直り、
「『舜典』」
と囁くと、紐で背にしていた二胡を構えて、楽の音の中へ加わった。
二胡三人、琵琶一人、月琴一人、笛一人に囲まれ、繊月のような眉をした美少年の歌手が、高い聲で歌い始める。
いにしえのすめらみことの大舜を
たたえて重華と申しあぐ
ふかくあかるき理智そなえ
堯の心に協(かな)ひ給う
玄徳のぼり聞こゆれば
まつりごとをぞ為し給う
途端に、帳の向こうの並の卓で、楽の音のおこぼれに与る者どもから、
「歌や好し!」
「好いぞ!」
と、やんやの声がかかっている。
『書経』の字句をひいて、今様ともいうべき調べにのせて、聖道を説く堅苦しさや、儀礼的ないかめしさを脱ぎ捨て、驚くほどに軽快で、踊りだしたくなるほどの音色である。
それは、襄陽のあるじがここに座っていることを知りもせず、彼を讃えているとも聞こえ、そして、禁句のはずの「協」をあえて堂堂と歌うことに、遥けくまします帝への敬意を込めたともみえた。
(おや、まだ子供ではないか)
彼は、笛を吹く童が少女で、髪を左右に団子に結いあげて、歌う少年の傍らにぴったりとついて、その蔭で吹くようにしているのをみつけて、それが微笑ましく、頬を緩めた。
ふと隣の我が龍の気配を追うと、どうも目頭を袖で抑えている。
(いつもの、あれか。逆さ睫か)
彼は、このような場合、あまり大袈裟に構われることを好まない龍を察して、知らぬふりを装ったが、黒い袖が左右の眸をともに抑えたようだったので、
また別な気がかりを含みながら巨きな耳を傾けていた。
一曲が終わり、帳の外で湧いた拍手にあわせて、彼も大きな掌を打ち合わせ、
「ついぞ、聞いたこともない。面白き楽曲じゃった。楽長どの、近う。……少ないが、あとで皆の祝い酒に」
と、差し招く。
「これはこれは過分な。新年早々、運が向いて参りました」
小さな銀の粒を皺の寄った手の上に認め、酒に酔ったような表情を浮かべた。
「それからな、そこな笛の子にな、これを」
彼は蓋碗の蓋をとりあげて、蓋裏の水滴を袖口の内側で拭い、懐中から何か取り出すと、掌から零してカラカラと乾いた音を立てて受け、差し出した。
「はは、これは可愛いお捻りを」
老爺はただの祖父という顔にかわり、受け取った蓋ごと、笛の少女に手渡した。
蓋の上のものを覗き込んでから、もの問いたげに少女が歌の少年を見上げて、
「わあ、きっと星の飴だよ、こんなにいっぱい」
との応えを聞くや、ぱっと瞳を輝かせると、ぴょこんとお辞儀を返してから、
また恥ずかしげに歌の少年の陰に隠れてしまった。客商売にしては、随分とはにかみ屋である。
「足るならば、あとは二階で一曲、一階で一曲、皆の衆に振舞うてやってくだされ」
彼は、あまりのんびりとは出来ぬこの後の都合を勘案してそう言ったのだが、
楽士どもも、それを小耳に挟んだ帳の外の客も
『気前の良い旦那だ』
『ありゃ、どこの旦那だえ』
と、言いたげな、それとも実際に囁きあっているような雰囲気が急におもはゆく、
「儂ぁ、この若旦那と、ちと話があるゆえな」
と濁して笑んだ。
「おありがとうございました。ではまたのお越しを」
一団は一礼してから帳の外に出、
「さあさあ、皆の衆、旦那様の奢りだ! 何がいいかね」
「『桃夭』!」
「否、『撃鼓』。あれは泣ける」
「待て待て、挙手で決めようぞ」
賑やかな採決に続いて、伝統に囚われない自由な節回しが自在に続くのであった。聴衆も、ただ珍奇を衒った新しい音楽を流行として歓迎しているのではなく、少なくとも二階に集っている者どもには、伝統の良きも悪しきも一通り心得た上で、このような音曲の発生を喜んでいるという、耳の肥えた風情が漂っている。
楽団が階下へ去ったあとには、即興と思われる詩の朗詠も聞こえ、
皆、快哉という明るい賑わしさである。
ここは単に美酒を飲み茶を喫し菓子を食うばかりの場所柄ではないことが受け取れた。郁郁たる文の雰囲気である。
「襄陽は、まこと、よい。世は、四角四面であってはよくない。適当に、丸みや凹凸がなければ」
「はい」
我が龍が国事以外については寡黙なことに彼は慣れていたが、どこか優れぬのかと彼はそれとなく注意を払いながら、茶を飲み干した。
それに気づいた龍は、何ごともないことを伝えんとするように、明るい聲音で問うた。
「我が君は、その菓子をなぜ今日」
「孔明。儂は今、『旦那様』だが」
「……星の飴を、なぜお持ちなのですか」
星の飴とは、城下で評判の菓子舗の人気商品である。
親指の爪ほどの、球形をした一面に、角が生え揃ったような形状の飴で、
はじめは別の名前で売り出していたのだが、誰が言い出したか、今や星の飴で通っている。
廉きから高きまで、一粒から売るので飛ぶように売れ、日が中天にかかる頃には売り切れるのである。
彼の三弟の妻女は料理が得手であり、襄陽に腰を落ち着けてからというもの、菓子作りに凝るようになり、この人気商品を真似て作って、
「松の実を芯にして、生姜味で作ってみました。うちの人が、大兄の大事な軍師様は、冬によく喉をお痛めで気の毒がっておりますので……。星の飴『もどき』ですけど」
と、暮れに届けてきたもので、彼の私室の卓の上の、陶製の蓋物の中に
詰まっているのだ。
「お前に障りがあるときに役立たねば、三妹が落胆するだろうぞ。重いものでもなし」
どうやら、外出時には銭金とともに当然のように懐中していたらしきことを、
彼はこともなげに明かした。
「旦那様、ありがとうございました」
「旦那、若旦那、お気をつけて」
「またのお越しを」
「おーい、旦那様がたのお帰りだぞ」
店の者だけでなく、集う客にまで送られる、『気前のよい旦那の親子連れ』の気配を物陰から見送り、左右の髪を団子に結った少女は、裏庭に少年と並んで腰掛け、星の飴を分け合っていた。
ふたりは、眉がよく似ている。
少女が、少年の掌に、小さな人差し指でなにかしたためると、
「そうだね、耳が大きな旦那様だったね。楽の音もよく聞こえるのかもしれないね」
良く似た眉をひらいて、少年が微笑んで応じる。
少女はニコと笑うと、また少年の掌に何か書き付ける。
「ふふ、『うさ耳の旦那様』か。こんなご褒美、初めて貰ったね。またお越しだといいけれど……」
小さな庭の植え込みの山茶花の花びらがはらはらと落ちたのを、少女は目ざとくみつけて、飛んでいこうとするので、美少年はそれをおしとどめ、
「あっ、こら。ちょっと『あーん』してごらん」
素直に口をあけた少女の舌の上に飴をみとめて
「花遊びは、飴が終わってから。喉に引っ掛けたりしたら、花びらどころじゃなくなっちゃうよ」
と、優しく窘め、
「それに、お前に何かあったら、誰が笛を吹く? いつも元気で、しっかり稼げるように、注意しなくちゃ。お前だって、一日でも笛が吹けなきゃ、悲しいだろう?」
大人びた口調で諭すのだった。
小さな頭に乗せたお団子をコクコクと頷かせて、少女はおとなしく少年の隣りに掛けなおした。
足をぶらぶらとさせながら、ふと思い出したのか、また少女は少年の袖をひいて、その掌を両手にとると、指先でなにかしたため、同意を求めるように見上げた。
「……うん。悲しい歌じゃなかったのにね。若旦那様は……。どうして涙ぐんでいたんだろうね」
うさ耳の旦那様が、この襄陽の城主で、若旦那様がその軍師であるとは、まだ誰も気づいていないのだった。