門鎖す(かどさす)草庵

2005/12/31

SDG三国伝BBW

……正直、ちょっとばかり、淋しくなったのう…。
じゃが、それも、よき哉よき哉。
…ああ天よ、なぜそれほどに高く青いのか。
ひとりになった翁を、哀れんでか。

や、こんなに早くから、人影じゃ。珍しいではないか。
おーい、お前さん、釣りか。
山女なら、もうちっと、こっちじゃよ。
釣りのついでにな、年寄りの繰り言に
付き合ってくれんか。
最近な、とうとうワシも、独居老人というやつに
なってしもうた。
すぐそこに住んどった、可愛い弟子を、
長いであろう旅に出してしもうたからな。
ワシの目の黒いうちに、さて、もう一度会えるかどうか。
いや別に、孤独死が怖いというわけではないよ。
村の衆も、日頃から気にかけてくれるからの。
ただ耳も随分と遠くなってきてしまってな、
青雲の志と共に再び世に出たあ奴の消息が、
今後どれだけ聞こえてくるか…。
いや、遠くなったワシの耳にすら、
きっと聞こえてくるのだな。
杞憂じゃ。よき哉。
ほれ、早速かかったじゃろ。
そ奴がな、よくそこで釣っとったんじゃ。
あ奴は、あれほど頭がいいくせに、
頭がいいのが仇になったのかのう、
もう天下国家に関わるのは御免と言いながらじゃ、
龍帝を継ぐあの侠が気になって気になって、
「玉璽の動向を探るだけです」
などと、聞きもしないのにそう断って出かけては、
いつもあの侠のことも探しておったくせに、
このワシが焚きつけても、中々仕えようとしない。
ほんにまあ、世話の焼ける弟子じゃった。
その証拠に、旅から帰ったあ奴に、
「それで、劉備とかいう侠は、どうしておったのかの」
と、水を向けてみると、
訥訥と、だが、そこまで見ておったのかという
細かいことまで話しおってな。あ奴め。
お前さんも、龍帝を継ぐあの侠、
見かけたじゃろ。
鬼のような髯の侠と、声の大きな侠と、
好青年な侠を連れとった。
不器用といおうか、単純といおうか、
時代遅れといおうか…じゃが、なぜか
一笑に附せない何かを、あの侠は備えている。
あ奴を伏竜だと知らんのに、
そして、ワシも大法螺を吹いておったのに、
あの侠は荊州にとどまって、
諦めようとしなかった。
単純に見えて、あの侠に、
まやかしなど通用しないのであろう。
さすがは、三侯の魂を継ぐ選ばれし者じゃ。
あ奴は、まだ気付いてないのかもしれんが、
あの侠は三璃紗の明日を救うだけでなく、
いつの日か、あ奴のことも救うのだ。
人の心の奥底を癒すことなど、
誰にでもできることではない。
だが、あの侠と共に生きるならば、
きっとそのような日が、必ず訪れる。
ワシは、あの才能も惜しいが、それ以上に、
親友を死なせた深い自責を刻んだ傷や
戦場で味わった虚無の闇が癒えぬままに
生涯を終えるかも知れんことのほうが
不憫でならんかった。
だが、それを差し引いてもじゃ、あ奴も、
あれ程にまで請われて、ようやく腰をあげるとは、
何とまあ、臆病なことか。
あの侠と、少し言葉をかわしただけで
すぐに分かったであろうに。
ちと粗忽なところもあるようじゃが、
四海を覆うような雅量。
会得しようと思って得られるものではない。
それにだ、あの侠の期待に応えられぬわけが
ないではないか。
ワシが手塩にかけた、伏竜なのだからな。
…いや、もしや、戀われた、のであろうかな。
だとすればじゃ、傍で見ていて焦れるほど
躊躇っておったのも、何となく説明がつくような気もするのう。
それもまた、よき哉。
……して、お前さんはどう思う?



SDG359 もくじへ戻る