まるで温室育ちの花を持ち込んだように、そして、その花弁を一枚たりとも散らさぬよう、細心の注意を払うように。
涙を浮かべて揺れる目尻を拭うようにあたたかい口髭を寄せられて、頼りない肩から腰に到る線の細さを大きな掌で辿られ、震える膝を包むように幾度も撫でられる。
掌のぬくもりで氷が融けるかのように、頑なに行儀の良い膝は、ほどけてゆきそうになる。
斯様に為されては、3秒と経たないうちに、まるで、触れ合っている其処彼処から、お前がいとおしい、と、責められるように膚から沁みこんでくるようで、先生は、何も考えられなくなってしまう。
(いけない、この御方は、本気だ)
先生の聡明な頭の隅を、そのような思いが駆けたが、彼を制止するにはもう手遅れな状態であることも同時によぎり、諦めかけたその時、サイドテーブルで、無機質な目覚ましの、規則的に連続する電子音が鳴った。
彼は、大変がっかりしたように、のろのろと起き上がると、長い腕をサイドテーブルに伸ばして時計を取り上げ、アラーム音をオフにする。
「休みの日は、いつも朝寝ができるようにしてくれておるではないか。
なにゆえ、今日に限って」
彼は時計を戻して、二度寝……否、初めからやり直しかと、黒髪を乱して横たわる先生の隣に、ごろりと寝そべる。
「目覚ましに、邪魔をされたぞ」
これしきのことで、息を整えようとしている先生にふたたび戯れかかると、
「……いけません……! 今日は、お出かけをなさる日です」
「はて」
「公孫さまとの、お約束の日です」
「今日であったか。なぜ今日なのだ」
「お休みだからです」
「ああっ。そうであった」
そのような朝であったことをおくびにも出さず、土曜日の午前11時まえ、彼は
公孫花壇の英国式庭園に、先生を伴ってでかけた。
公孫グループの中でも、穏健な業界の花屋で総経理(社長)に就いている公孫一族の当主は、彼が若い頃から何かと目をかけてくれていた。
彼の執事の常山の好漢も、もともとは公孫花壇で経営を任されていたやり手の一人だった。
このたび、公孫花壇は、英国式バラ庭園の敷地内にティーサロンを開店するにあたり、広告を打とうというのだ。
有閑マダム向けの、良い紙を使ってずっしりと重い、写真満載の画報の類にだ。しかし、金はない。
そこで当初、公孫総経理は、あらたまって、常山の好漢にアポイントを申し込み、公叔として顔のひろい彼の人脈に頼って、美しいモデルの、格安での斡旋を依頼しようと考えた。たとえば歌姫の、レディ・貂蝉との人脈を思い浮かべ、
彼女を想定してもいた。
だが、邸を訪れて、公孫総経理の考えは変わった。
公叔邸の玄関から、書斎へ案内されるちょうどその時、二階に続く階段から、彼の子息と、うるわしい人影が駆け下りてきたのに遭遇したのだ。
「あっ、公孫の伯父うえさま。いらっしゃいませ」
「おお、禅くん、また背が伸びたな。……こちらは?」
「こうめい先生です」
(これが、噂の……?)
「お初にお目にかかります。いらっしゃいませ」
「公孫、伯珪と申す……。お会いできまして、光栄です」
総経理は、先生の優雅な一礼に、握手を求めることも忘れて目を瞠り、短く挨拶をかわしたあと、
「せんせ、紙飛行機!」
「……失礼いたします、どうぞごゆっくり」
「轢かれちゃいますよ! はやくはやく!」
「まさか、あれほどの飛距離が出るとは」
「量産して、色つけて、ぜったい学校にもってくー! 先生も手伝ってくださいますか?」
「もちろんですとも」
「青色がいいかなあ。濃いやつ。ルフトハンザみたいな」
賑やかな子息と共に、まるで香炉の清らかな燻りがたゆたって、たなびいて去っていくような趣に、しばし立ち尽くしてしまった。
「常山の。あれが……あれが、伏龍先生なのか。あれが」
「はい」
「あのようなお方と、一つ屋根の下に暮らして、お前、なんとも無いのか」
「……そうですねえ、時々、奇想天外なことをなさるのには驚きますが、公叔ともご子息ともお睦まじく、我々にもお優しくて、野郎ばかりの邸に、花が咲いたようではあります」
「……いや、いい。お前の、その鉄板の朴念仁ぶりを忘れておった」
昔なじみなので、軽い口調で会話しながら
(……理想的ではないか。清流のような美貌。あまりにも美女では、読者の嫉視を免れない。美しすぎる女をビジュアルに使って現実とかけ離れるよりも、『わたしも行きたいわぁー』という夢を与える、集客につながる広告であらねばならん)
総経理はそのように意を固めると、書斎で彼にかけあった。
「やあ、公孫の兄者。お変わりものう」
彼は、署名のために一日中書斎に籠っていた疲労を散じて、機嫌のよい表情に、懐かしい色を加えて歓迎する。
「いや君こそ、……隅におけぬではないか」
「兄者ほどではありません。御用ならいつでもお呼びくだされ、どうぞおかけを」
「ところでな、劉君、きみ、ちょっとCMモデルになってみんか。……君は、ついでなのだが」
それを聞いた彼が、茶を噴き出しそうになったのは、言うまでもない。
そのような次第で、この秋の土曜日の昼、まだオープンしていない、ガラスのシールがとれたばかりの公孫花壇のティーサロンの入り口で、彼と先生は、撮影スタッフに囲まれていた。
ノーギャラの、友情出演である。そのかわり、彼は撮影に条件をつけた。
一、先生に、婦人服を着せないこと
一、先生の顔を撮影しないこと
後ろ姿や、いかにも優美な仕草だけでも、総経理は満足であったので、快諾した。
スタイリストは、何通りかを取り寄せていた衣装の中から、古き良き頃の祖国の、袖が広く裾の長い宋朝風を由来にしたデザインの、あっさりとしたアイボリーの生地に、銀糸と、濃い艶のある茶と白い絹糸で、袖口や裾に繊細な唐草の刺繍をあしらった性別の曖昧な一揃いを選び、天気もよかったので、やはり刺繍の入った布の靴を合わせた。
襟ぐりの広い胸元に、左右から清楚に深く重ねられた直線的な白い襟がのぞいて、先生の品の良い容貌をゆかしく引き立てるので、スタイリストはみとれながら、
「ああ、髪もお結いになったら、それはそれは……」
と言いかけて、俄かに黙った。先生が婦女ではない以上、褒め言葉ではない。
「しかしなあ、……やはり儂はどうであろうか。美男とは言い難いのであるし」
彼には、いまひとつ気が進まない風を装った。
「もしお差支えでしたら、ただ今からでも、モデルを調達いたしましょうか」
コーディネーターの一人が、懐中から携帯電話を取り出そうとするのを見て、
先生は彼の背広の袖を慌てて引き、
「公叔、お呼びにならないで、くださいませ」
羞かむように、ちいさな聲で訴えた。
澄んだ双眸のなかに、
(あなた様とご一緒でなければ、できませぬ)
という不安を確かに認めて彼は満足して、
「よしよし、よう分かった。ではやはり儂を撮れ」
満面の笑顔で応じた。
カメラやレフ版の向こうで、総経理は笑いをかみ殺すのに必死である。
(今日、ご子息を連れていなかったのは、賢明な判断だったといえよう。さすがと言おうか)
「はい、衣装の具合も結構です。それでは、影の具合がよろしいうちに、
テストからいきまーす。アプローチから入店するまで、カメラを意識なさらず、
ゆっくり……そうですね、何かお話なさりながら、歩いてきてみてください」
彼は、先生を連れて、少しカーブした小径の向こうへ歩き去ってゆく。
「あの、公叔……。いざとなりますと」
「どうしたのだ。顔は撮らせぬから、『あれは誰某』と騒がれる心配はない」
「はい……でも、このようなこと、初めてで」
「それに、公孫の兄者が、ぜひお前をとお望みだ。他の誰も代わりにはなれぬ」
「わたくしのような者で、大丈夫なのでしょうか」
「孔明よ」
彼は立ち止まって、門扉のそばに咲く、牡丹のような花を抓むようにして問うた。
「これは、何と言うバラかな」
「……チャイナ・ローズと思われます。学名 ロサ・キネンシス、四季咲きのバラとして、ヨーロッパのバラに多大な影響を与え、現代のバラ園芸を語るに欠かせない重要な品種です」
一を聞いて十を知る先生の癖は、不意に一を訊ねれば三、四は答えてしまう几帳面さである。今は、撮影のことなど、もう忘れている。
「ふむ、して、この庭の特徴を、何と見る」
「およそ西洋風の庭園については左右対称が好まれますが、英国式庭園は景観美を重要視し……。たとえばこの、緩いカーブの石畳の道などは典型例で」
磨きぬかれた翡翠の玉が、絹布のうえを転がるように、淀みもなく続く言葉を
彼は遮った。
「儂にもひとつ、解説させてみよ」
「どうぞ」
先生は、好奇心に双眸をきらきらと輝かせて無防備に待っている。
彼は、チャイナ・ローズの生垣に先生を隠すようにして、ほんの3秒、朝のベッドの続きを与えたあと、長い腕の中で、たちまちに夢を見ているような風情の先生に、
「庭を作る最大の目的の一つは、人目を偸むために他ならない。……違っておるか」
真面目な聲で、意地悪な質問を重ねた。先生が頬を淡く染めて、答えに窮しているので、彼は明朗な笑い聲を發すると、
「余計なことは考えずに、そなたは、儂だけを見ておればよい」
象牙細工のように精巧な耳の傍で、わざと低く囁いたのだった。
<七曜七題 全8話>全話一気読みへのショートカットは → こちら
涙を浮かべて揺れる目尻を拭うようにあたたかい口髭を寄せられて、頼りない肩から腰に到る線の細さを大きな掌で辿られ、震える膝を包むように幾度も撫でられる。
掌のぬくもりで氷が融けるかのように、頑なに行儀の良い膝は、ほどけてゆきそうになる。
斯様に為されては、3秒と経たないうちに、まるで、触れ合っている其処彼処から、お前がいとおしい、と、責められるように膚から沁みこんでくるようで、先生は、何も考えられなくなってしまう。
(いけない、この御方は、本気だ)
先生の聡明な頭の隅を、そのような思いが駆けたが、彼を制止するにはもう手遅れな状態であることも同時によぎり、諦めかけたその時、サイドテーブルで、無機質な目覚ましの、規則的に連続する電子音が鳴った。
彼は、大変がっかりしたように、のろのろと起き上がると、長い腕をサイドテーブルに伸ばして時計を取り上げ、アラーム音をオフにする。
「休みの日は、いつも朝寝ができるようにしてくれておるではないか。
なにゆえ、今日に限って」
彼は時計を戻して、二度寝……否、初めからやり直しかと、黒髪を乱して横たわる先生の隣に、ごろりと寝そべる。
「目覚ましに、邪魔をされたぞ」
これしきのことで、息を整えようとしている先生にふたたび戯れかかると、
「……いけません……! 今日は、お出かけをなさる日です」
「はて」
「公孫さまとの、お約束の日です」
「今日であったか。なぜ今日なのだ」
「お休みだからです」
「ああっ。そうであった」
そのような朝であったことをおくびにも出さず、土曜日の午前11時まえ、彼は
公孫花壇の英国式庭園に、先生を伴ってでかけた。
公孫グループの中でも、穏健な業界の花屋で総経理(社長)に就いている公孫一族の当主は、彼が若い頃から何かと目をかけてくれていた。
彼の執事の常山の好漢も、もともとは公孫花壇で経営を任されていたやり手の一人だった。
このたび、公孫花壇は、英国式バラ庭園の敷地内にティーサロンを開店するにあたり、広告を打とうというのだ。
有閑マダム向けの、良い紙を使ってずっしりと重い、写真満載の画報の類にだ。しかし、金はない。
そこで当初、公孫総経理は、あらたまって、常山の好漢にアポイントを申し込み、公叔として顔のひろい彼の人脈に頼って、美しいモデルの、格安での斡旋を依頼しようと考えた。たとえば歌姫の、レディ・貂蝉との人脈を思い浮かべ、
彼女を想定してもいた。
だが、邸を訪れて、公孫総経理の考えは変わった。
公叔邸の玄関から、書斎へ案内されるちょうどその時、二階に続く階段から、彼の子息と、うるわしい人影が駆け下りてきたのに遭遇したのだ。
「あっ、公孫の伯父うえさま。いらっしゃいませ」
「おお、禅くん、また背が伸びたな。……こちらは?」
「こうめい先生です」
(これが、噂の……?)
「お初にお目にかかります。いらっしゃいませ」
「公孫、伯珪と申す……。お会いできまして、光栄です」
総経理は、先生の優雅な一礼に、握手を求めることも忘れて目を瞠り、短く挨拶をかわしたあと、
「せんせ、紙飛行機!」
「……失礼いたします、どうぞごゆっくり」
「轢かれちゃいますよ! はやくはやく!」
「まさか、あれほどの飛距離が出るとは」
「量産して、色つけて、ぜったい学校にもってくー! 先生も手伝ってくださいますか?」
「もちろんですとも」
「青色がいいかなあ。濃いやつ。ルフトハンザみたいな」
賑やかな子息と共に、まるで香炉の清らかな燻りがたゆたって、たなびいて去っていくような趣に、しばし立ち尽くしてしまった。
「常山の。あれが……あれが、伏龍先生なのか。あれが」
「はい」
「あのようなお方と、一つ屋根の下に暮らして、お前、なんとも無いのか」
「……そうですねえ、時々、奇想天外なことをなさるのには驚きますが、公叔ともご子息ともお睦まじく、我々にもお優しくて、野郎ばかりの邸に、花が咲いたようではあります」
「……いや、いい。お前の、その鉄板の朴念仁ぶりを忘れておった」
昔なじみなので、軽い口調で会話しながら
(……理想的ではないか。清流のような美貌。あまりにも美女では、読者の嫉視を免れない。美しすぎる女をビジュアルに使って現実とかけ離れるよりも、『わたしも行きたいわぁー』という夢を与える、集客につながる広告であらねばならん)
総経理はそのように意を固めると、書斎で彼にかけあった。
「やあ、公孫の兄者。お変わりものう」
彼は、署名のために一日中書斎に籠っていた疲労を散じて、機嫌のよい表情に、懐かしい色を加えて歓迎する。
「いや君こそ、……隅におけぬではないか」
「兄者ほどではありません。御用ならいつでもお呼びくだされ、どうぞおかけを」
「ところでな、劉君、きみ、ちょっとCMモデルになってみんか。……君は、ついでなのだが」
それを聞いた彼が、茶を噴き出しそうになったのは、言うまでもない。
そのような次第で、この秋の土曜日の昼、まだオープンしていない、ガラスのシールがとれたばかりの公孫花壇のティーサロンの入り口で、彼と先生は、撮影スタッフに囲まれていた。
ノーギャラの、友情出演である。そのかわり、彼は撮影に条件をつけた。
一、先生に、婦人服を着せないこと
一、先生の顔を撮影しないこと
後ろ姿や、いかにも優美な仕草だけでも、総経理は満足であったので、快諾した。
スタイリストは、何通りかを取り寄せていた衣装の中から、古き良き頃の祖国の、袖が広く裾の長い宋朝風を由来にしたデザインの、あっさりとしたアイボリーの生地に、銀糸と、濃い艶のある茶と白い絹糸で、袖口や裾に繊細な唐草の刺繍をあしらった性別の曖昧な一揃いを選び、天気もよかったので、やはり刺繍の入った布の靴を合わせた。
襟ぐりの広い胸元に、左右から清楚に深く重ねられた直線的な白い襟がのぞいて、先生の品の良い容貌をゆかしく引き立てるので、スタイリストはみとれながら、
「ああ、髪もお結いになったら、それはそれは……」
と言いかけて、俄かに黙った。先生が婦女ではない以上、褒め言葉ではない。
「しかしなあ、……やはり儂はどうであろうか。美男とは言い難いのであるし」
彼には、いまひとつ気が進まない風を装った。
「もしお差支えでしたら、ただ今からでも、モデルを調達いたしましょうか」
コーディネーターの一人が、懐中から携帯電話を取り出そうとするのを見て、
先生は彼の背広の袖を慌てて引き、
「公叔、お呼びにならないで、くださいませ」
羞かむように、ちいさな聲で訴えた。
澄んだ双眸のなかに、
(あなた様とご一緒でなければ、できませぬ)
という不安を確かに認めて彼は満足して、
「よしよし、よう分かった。ではやはり儂を撮れ」
満面の笑顔で応じた。
カメラやレフ版の向こうで、総経理は笑いをかみ殺すのに必死である。
(今日、ご子息を連れていなかったのは、賢明な判断だったといえよう。さすがと言おうか)
「はい、衣装の具合も結構です。それでは、影の具合がよろしいうちに、
テストからいきまーす。アプローチから入店するまで、カメラを意識なさらず、
ゆっくり……そうですね、何かお話なさりながら、歩いてきてみてください」
彼は、先生を連れて、少しカーブした小径の向こうへ歩き去ってゆく。
「あの、公叔……。いざとなりますと」
「どうしたのだ。顔は撮らせぬから、『あれは誰某』と騒がれる心配はない」
「はい……でも、このようなこと、初めてで」
「それに、公孫の兄者が、ぜひお前をとお望みだ。他の誰も代わりにはなれぬ」
「わたくしのような者で、大丈夫なのでしょうか」
「孔明よ」
彼は立ち止まって、門扉のそばに咲く、牡丹のような花を抓むようにして問うた。
「これは、何と言うバラかな」
「……チャイナ・ローズと思われます。学名 ロサ・キネンシス、四季咲きのバラとして、ヨーロッパのバラに多大な影響を与え、現代のバラ園芸を語るに欠かせない重要な品種です」
一を聞いて十を知る先生の癖は、不意に一を訊ねれば三、四は答えてしまう几帳面さである。今は、撮影のことなど、もう忘れている。
「ふむ、して、この庭の特徴を、何と見る」
「およそ西洋風の庭園については左右対称が好まれますが、英国式庭園は景観美を重要視し……。たとえばこの、緩いカーブの石畳の道などは典型例で」
磨きぬかれた翡翠の玉が、絹布のうえを転がるように、淀みもなく続く言葉を
彼は遮った。
「儂にもひとつ、解説させてみよ」
「どうぞ」
先生は、好奇心に双眸をきらきらと輝かせて無防備に待っている。
彼は、チャイナ・ローズの生垣に先生を隠すようにして、ほんの3秒、朝のベッドの続きを与えたあと、長い腕の中で、たちまちに夢を見ているような風情の先生に、
「庭を作る最大の目的の一つは、人目を偸むために他ならない。……違っておるか」
真面目な聲で、意地悪な質問を重ねた。先生が頬を淡く染めて、答えに窮しているので、彼は明朗な笑い聲を發すると、
「余計なことは考えずに、そなたは、儂だけを見ておればよい」
象牙細工のように精巧な耳の傍で、わざと低く囁いたのだった。
<七曜七題 全8話>全話一気読みへのショートカットは → こちら