指に関する5つのお題 ( 1 ) 幸運を祈る【親指】

2007/02/01

21cパラレル(指に関する5title) 劉公叔の物語(21世紀)

「ほんとですか、父上、ちょうど春休みになるし、良かったなあ
 先生はパスポート持っていらっしゃるでしょうか。
 あ、そーか、ヨーロッパとか、よく行かれてたんでしたよね、
 ・・・あ、お話ししますよね、父上」

廊下をスキップしながら、携帯電話に
嬉しげに話しかける子息の足音が近づいてくるのを、
先生は、夕方の暖炉の前の長椅子で聞いていた。
「先生、父からです。一緒に来なさいって」
まだ少年のあどけない手が、
先生に、遥か一万数千キロの彼方をつないでいる機械を差し出した。

「・・・公、叔」
先生の声が掠れる。
「おはよう、孔明・・・いや、そちらはもう夕方か」

春節が終わって一段落してから、彼は、某国の自然災害の復興後の
祈念式典に出席して、ついでに現地華僑や財界人と親睦を深めるという、
ちょっとした外遊に出て、一週間ほど経過していた。

「禅は話しただろうか、孔明。明日にでも・・・とは無理な話だが、
 数日中に、お前と禅とで、こちらへ来なさい」
話の内容は簡潔で単純で、理解に苦しむことは何もないのに、
七日七晩も聞かなかった、懐かしい慕わしい聲を、
すぐ耳元にして、しかし其の姿はどこにもなくて、
天才の頬を、つと涙が伝った。

「禅の電話にメールを送ってもよいのだがな、 この、携帯電話の釦というやつは、なぜにこうも、小さくできておるのだ。 儂のこの、規格外な指など、 はなっから メーカーの考えにないということじゃ。親指族などという輩の仲間入りは到底できん。
 やはり、儂は、電話本来の機能だけで良い。『しゃめ』もいらん。時差は、煩わしいが」
しかも、なんじゃこの、複雑怪奇なデコメというやつは。
機種が違っただけで化け化けではないか、と舌打ちしつつ、
詳細は、常山の好漢が手配済みで、
あちらでしっかり格安にオープンチケットを取って、
もうビジネス航空便の速達で送ったという。
「気をつけておいで。よい旅をな」
受話器の向こうで、通話口に口づけをする音が、やけに鮮明に聴こえた。


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