某国某所の夜、アジアンカフェ「古井戸」での、女子飲み会。
本日は2月14日、恋する女子の味方の、聖バレンタインデー。
集っているのは、メイド派遣会社「錦官城」の非常勤職員で、
公叔邸での勤務のシフトに入っている、「趙さまファンクラブ」の面々なのだ。
予約テーブルの上座におさまった、お局、といった雰囲気の客が、
「お疲れ!待ってたわよ!!」
遅れて来店した、小柄な眼鏡っ子に、はしゃいだ声をかける。
「でっ、でっ、で?どうだったの?」
縦ロールヘアにピンクの口紅のお嬢様風が、
眼鏡っ子に椅子を勧めながら、戦果を尋ねる。
毎年、常山出身の好漢への、各々の本気チョコを忍ばせて、
無造作に、義理チョコを景気良く上乗せしてカモフラージュした、
それは大きな紙袋を、退勤時に勤怠表のサインを受ける際に、
「趙さま」に手渡すのだ。
「ぅん・・・。受け取っていただけたんだけど」
「よっしゃあ!」
「あぁーん、今日はどんなシャツにネクタイだったのかしら」
「待ちなさいって。『だけど』が気になるじゃない」
冷静な意見を述べる、ワンレングスのセミロング。
「それがね・・・公叔が、来月渡航なさるでしょ」
「こら。『壁に耳あり』。NGワードです。『殿下』とお呼びしなさい」
コホン、と、お局が、年長者らしく注意を促す。
「あっ、すみません。
それで、 今日、そのことで特にお忙しかったみたいで」
一同、グラスを傾ける手も止まって、固唾を呑む。
「・・・趙様が、夕方から出かけてしまわれて・・・」
「「「ええーっ!!」」」
皆、自分が会えなかったかの如く、落胆の色も露にしてみせる。
「張様も、国際運転免許の更新に午後からお出かけになってしまって、
関様は、何かイケナイお取引に朝からお出ましみたいで。
でも、今日お渡ししないと、絶対変だから、こういうのって。
だから思い切って・・・あの方に、お願いしてみた」
「え?ご令息?」
「・・・・・あの先生」
想定外の人物を脳裏に描いて、一同、当惑の表情を浮かべる。
この場合『お父上様にお渡しいただけませんでしょうか』と、
素直で気さくな、あの子息にお願いしてみるのが、まず穏当である。
あの方は、公叔の舎弟や、配下ではない。
天才ピアニストであり、お客人でもあり、あるいは、もっと特別な存在。
「あんた時々、思いきったことしちゃうわよねー。先生をお使い立てするなんて」
「だけど、あの先生って、優しそうだし、ちゃんとお渡しくださると思う」
「確かに、だからって殿下にお渡しに行くなんて、大袈裟だし、かなり勇気がいるもんね」
「趙さま宛のチョコ、無事、かな」
「え?無事じゃないチョコがあるかもってこと?」
「ちゃんと先生にも義理チョコ入れたじゃん」
一人を除いて、ハッと固まる。
「・・・一番上って、殿下宛のでしょ。いつも。全部そうだと思われたとしたら?」
「全滅の可能性も」
「・・・でもっ、あの先生って、そんな、ヤキモチとか妬くタイプに見えないし、
隠滅とか、見え透いた軽率なこととか、しないと思うよ。
義理だって、わかってそうだし」
眼鏡っ子が、自分の判断を励ますように、先生の弁護をつづける。
「先生って、いつ見ても浮世離れしてると思ってたんだけど、
『生憎、みな出払っておりますし、おそらく私の署名では、ご契約上無効でしょう。
公叔にご署名をお願いしてみましょう』って、ご親切だったんだよ。
次回でも大丈夫なのに。すごく几帳面なかただよ」
へえぇーと、軽く驚きと好感の雰囲気に場が和んだあと、
「人は見かけによらないって。あの先生、ぜーったい、殿下に惚れてるし」
お局が、ふふんと、いつぞや見かけてしまった情景を思い出し笑いしながら言う。
「えーっ、ちょっと、さっきから、なあにそれ、嘘、ほんと?」
クールに見えたワンレンが、食いつく。
「あんた、いつもどこ見て仕事してんのよ」
「アタシは、殿下の方がもう、先生にメロメロなんじゃないかと思う」
「うふ、平日じゃないと、ああいう光景には遭遇できないかもよ」
縦ロールヘアを弄りながら、お嬢様風がもったいぶる。
「どこ見て、って・・・(あなたがたこそ、どこ見て・・・・・)」
「そーそ、日祝って、殿下がご不在のことが多いからね」
「私、平日って一応学生さんやってるから、だめなんだよなぁー」
「それって・・・花嫁修業ってやつも入れてるのぉ?」
「そっ、そんなんじゃないわよっ。それより、皆のその話が気になるんだけど」
「周さまが来た日の話は、覚えてるでしょ」
「怒ってたけど格好よかったよなぁ、生の周さま・・・独身だったらアタックしてたかも」
「でもあのことは、先生を守ろうとした殿下のお芝居、って結論したじゃない」
「あの時は、アタシ達も殿下に騙されてたってことだと思う」
「それか、口説いてる最中」
「そうだよね、先生のあの指輪は、オーダーメイドとしか思えないし、
逆算すると・・・」
「物証としてどうかなー。だって、殿下は指輪なさってない」
「甘いよ。それじゃ、深い関係です、って吹聴してるようなものだと思う。
多分おそろいで作ってあるよ、それで、嵌めたい気持ちを我慢してるんだよ」
「先生可愛いさってところ?」
「一人でこっそり嵌めたり外したり、してたりして」
「かわいいわあ殿下」
「空想は、証拠能力と説得力にに欠けるなぁ」
「じゃ、目撃情報ですけどねー、最近見ちゃったのはねえ、
お昼のお給仕の時だったかなー、
配膳にうかがったら、食卓の向こうの窓の前で、殿下が先生の顔に、
ものすごく不自然な近さで顔を寄せて覗き込んでらっしゃるのよ、
逆光で良く見えなかったけど。 痛くないかとか何とか、おっしゃってたから、
先生ってコンタクトなのかもしれないけどね、だとしてもよ、
・・・ちょっと、過保護すぎっていうか。先生もいい年して、殿下の為すが儘」
「アタシは、書斎で見ちゃった。先生の指を咥えてる殿下」
「「「ええっ!!」」」
「衝撃映像じゃない・・・あんた、よく平静でいられたわね」
「その後がね、『すまないが、絆創膏を持ってきてはくれまいか』だった。
なにかで、先生、指切ったみたいな感じだった」
「でも普通、舐めるぅ?子供じゃあるまいし」
「怪しいなあーそれ。だって先生、職業柄、箸より重いもの、持ったり、持たされる?」
「そうだよ、公演はしないにしてもね。保険かかってそう」
「嘘も方便の疑い濃厚だあ・・・」
一同、ふかぶかと頷く。
「・・・で、あんたも何か、目撃してるんでしょ」
ワンレンが、お嬢様風に向き直って、促す。
「うふふふふ」
「なにその含み笑い。かわいい顔してヤラシイ」
「ついに見ちゃった、ってとこじゃない?決定的な感じの」
「決定的って」
「キスしてた、とかね」
「うわー、さすが姉御。さらっと言っちゃった」
「嘘お」
「いいや、無いとはいえない」
「・・・ちょっと待ってよ、殿下への尊敬が揺らぎそう・・・」
「なんで揺らぐの。保守的なのは構わないけど、偏見は感心しないな」
お嬢様風は、ガヤガヤと、騒然とする席上、かわいく咳払いをして、
「うん、見ちゃったって言うか・・・聞いちゃったのよね」
「「「ええっ?」」」
皆の鋭い視線を一身に集めて、ちょっと臆しながら
「3時のお茶を、お下げしようと思って行ったらね・・・
もうね、お色気たっぷりな声でね、先生の名前を呼んでる殿下。腰にキた」
「きゃぁ」
「どこでっ、ねえ、どこで?」
「暖炉のある部屋」
「あーっ、あの長椅子のとこ?よく仲良く座ってるもんね」
「扉から遠くて、ちょっと死角なんだよねー」
「・・・次からあの部屋を正視できないかも・・・」
「ノックしたんでしょ」
「もちろんよ。だからもう無人かと思って、『失礼しまあす』って、言わなかったの」
「もう聞こえてない情況だった、ってこと?」
勝手知ったる邸の中を想像して、一同、いやが上にも盛り上がる。
「それから、『ちゅ』どころじゃない、映画みたいな、すっごく情熱的なリップ音が延々と・・・」
「えーっ」
「やっぱり」
「まさか、そこでそのまま・・・!」
「さすがに皆様ご在宅だったしー、そこまでだったみたいなんだけどね」
「『そこまで』でも、充分じゃない。それ以上の関係なの既に?」
「だって、これがまたあの物静かな先生と思えないような、
うろたえた甘ーい囁き声、というより喘ぎ声で、『いけません』とか」
「とか?」
「わ、先生ったら、初めてじゃないってムード・・・」
「煽ってる・・・って、分かってないね、先生」
「天然なんだと思う」
「でね、『毎日では身が持たぬのであろう、分かっておる、しばし許せ』とか」
「明らかに一線越えてる!越えてなきゃ言えない!」
「立ち聞き!服務規程違反スレスレ」
「不可抗力よ、わざとじゃないんだもーん」
「しっかり聞いてるし。覚えてるし」
「・・・殿下って、ああ見えて、お盛んなんだぁ・・・」
「でもっ、そう聞こえただけでしょ、そうじゃないかもしれない・・・でしょ」
「まあ、いいんじゃないのお?殿下がお幸せなら、それでさ」
一押しは趙さまだが、公叔も敬って淡く惹かれていたワンレンを、お局が慰める。
「趙さま・・・つくづく大変なかたにお仕えしちゃってる訳ね」
「何かと気苦労が増えちゃったかもよ。若白髪になったらどうしよう」
「大丈夫っしょ、爽やかな笑顔で万事こなしちゃってるんでしょ。そこが素敵なのよねー」
「これで恋愛に目覚めてくださったらいいんだけどね。仕事一筋なんだもんなぁ」
今まで何箱贈ったのか、お局が溜息混じりに遠い眼をする。
「そのためにも、アタシは、もうちょっと殿下が先生に
公然とアンナコトやコンナコト、しちゃったらいいんだと思う」
眼鏡っ子が、かなり真顔で爆弾発言をした為に、ますます座は盛り上がって、
二次会、三次会へ突入する有様だった。
2月14日の女子会の肴にされていることを、彼も先生も知らない。
本日は2月14日、恋する女子の味方の、聖バレンタインデー。
集っているのは、メイド派遣会社「錦官城」の非常勤職員で、
公叔邸での勤務のシフトに入っている、「趙さまファンクラブ」の面々なのだ。
予約テーブルの上座におさまった、お局、といった雰囲気の客が、
「お疲れ!待ってたわよ!!」
遅れて来店した、小柄な眼鏡っ子に、はしゃいだ声をかける。
「でっ、でっ、で?どうだったの?」
縦ロールヘアにピンクの口紅のお嬢様風が、
眼鏡っ子に椅子を勧めながら、戦果を尋ねる。
毎年、常山出身の好漢への、各々の本気チョコを忍ばせて、
無造作に、義理チョコを景気良く上乗せしてカモフラージュした、
それは大きな紙袋を、退勤時に勤怠表のサインを受ける際に、
「趙さま」に手渡すのだ。
「ぅん・・・。受け取っていただけたんだけど」
「よっしゃあ!」
「あぁーん、今日はどんなシャツにネクタイだったのかしら」
「待ちなさいって。『だけど』が気になるじゃない」
冷静な意見を述べる、ワンレングスのセミロング。
「それがね・・・公叔が、来月渡航なさるでしょ」
「こら。『壁に耳あり』。NGワードです。『殿下』とお呼びしなさい」
コホン、と、お局が、年長者らしく注意を促す。
「あっ、すみません。
それで、 今日、そのことで特にお忙しかったみたいで」
一同、グラスを傾ける手も止まって、固唾を呑む。
「・・・趙様が、夕方から出かけてしまわれて・・・」
「「「ええーっ!!」」」
皆、自分が会えなかったかの如く、落胆の色も露にしてみせる。
「張様も、国際運転免許の更新に午後からお出かけになってしまって、
関様は、何かイケナイお取引に朝からお出ましみたいで。
でも、今日お渡ししないと、絶対変だから、こういうのって。
だから思い切って・・・あの方に、お願いしてみた」
「え?ご令息?」
「・・・・・あの先生」
想定外の人物を脳裏に描いて、一同、当惑の表情を浮かべる。
この場合『お父上様にお渡しいただけませんでしょうか』と、
素直で気さくな、あの子息にお願いしてみるのが、まず穏当である。
あの方は、公叔の舎弟や、配下ではない。
天才ピアニストであり、お客人でもあり、あるいは、もっと特別な存在。
「あんた時々、思いきったことしちゃうわよねー。先生をお使い立てするなんて」
「だけど、あの先生って、優しそうだし、ちゃんとお渡しくださると思う」
「確かに、だからって殿下にお渡しに行くなんて、大袈裟だし、かなり勇気がいるもんね」
「趙さま宛のチョコ、無事、かな」
「え?無事じゃないチョコがあるかもってこと?」
「ちゃんと先生にも義理チョコ入れたじゃん」
一人を除いて、ハッと固まる。
「・・・一番上って、殿下宛のでしょ。いつも。全部そうだと思われたとしたら?」
「全滅の可能性も」
「・・・でもっ、あの先生って、そんな、ヤキモチとか妬くタイプに見えないし、
隠滅とか、見え透いた軽率なこととか、しないと思うよ。
義理だって、わかってそうだし」
眼鏡っ子が、自分の判断を励ますように、先生の弁護をつづける。
「先生って、いつ見ても浮世離れしてると思ってたんだけど、
『生憎、みな出払っておりますし、おそらく私の署名では、ご契約上無効でしょう。
公叔にご署名をお願いしてみましょう』って、ご親切だったんだよ。
次回でも大丈夫なのに。すごく几帳面なかただよ」
へえぇーと、軽く驚きと好感の雰囲気に場が和んだあと、
「人は見かけによらないって。あの先生、ぜーったい、殿下に惚れてるし」
お局が、ふふんと、いつぞや見かけてしまった情景を思い出し笑いしながら言う。
「えーっ、ちょっと、さっきから、なあにそれ、嘘、ほんと?」
クールに見えたワンレンが、食いつく。
「あんた、いつもどこ見て仕事してんのよ」
「アタシは、殿下の方がもう、先生にメロメロなんじゃないかと思う」
「うふ、平日じゃないと、ああいう光景には遭遇できないかもよ」
縦ロールヘアを弄りながら、お嬢様風がもったいぶる。
「どこ見て、って・・・(あなたがたこそ、どこ見て・・・・・)」
「そーそ、日祝って、殿下がご不在のことが多いからね」
「私、平日って一応学生さんやってるから、だめなんだよなぁー」
「それって・・・花嫁修業ってやつも入れてるのぉ?」
「そっ、そんなんじゃないわよっ。それより、皆のその話が気になるんだけど」
「周さまが来た日の話は、覚えてるでしょ」
「怒ってたけど格好よかったよなぁ、生の周さま・・・独身だったらアタックしてたかも」
「でもあのことは、先生を守ろうとした殿下のお芝居、って結論したじゃない」
「あの時は、アタシ達も殿下に騙されてたってことだと思う」
「それか、口説いてる最中」
「そうだよね、先生のあの指輪は、オーダーメイドとしか思えないし、
逆算すると・・・」
「物証としてどうかなー。だって、殿下は指輪なさってない」
「甘いよ。それじゃ、深い関係です、って吹聴してるようなものだと思う。
多分おそろいで作ってあるよ、それで、嵌めたい気持ちを我慢してるんだよ」
「先生可愛いさってところ?」
「一人でこっそり嵌めたり外したり、してたりして」
「かわいいわあ殿下」
「空想は、証拠能力と説得力にに欠けるなぁ」
「じゃ、目撃情報ですけどねー、最近見ちゃったのはねえ、
お昼のお給仕の時だったかなー、
配膳にうかがったら、食卓の向こうの窓の前で、殿下が先生の顔に、
ものすごく不自然な近さで顔を寄せて覗き込んでらっしゃるのよ、
逆光で良く見えなかったけど。 痛くないかとか何とか、おっしゃってたから、
先生ってコンタクトなのかもしれないけどね、だとしてもよ、
・・・ちょっと、過保護すぎっていうか。先生もいい年して、殿下の為すが儘」
「アタシは、書斎で見ちゃった。先生の指を咥えてる殿下」
「「「ええっ!!」」」
「衝撃映像じゃない・・・あんた、よく平静でいられたわね」
「その後がね、『すまないが、絆創膏を持ってきてはくれまいか』だった。
なにかで、先生、指切ったみたいな感じだった」
「でも普通、舐めるぅ?子供じゃあるまいし」
「怪しいなあーそれ。だって先生、職業柄、箸より重いもの、持ったり、持たされる?」
「そうだよ、公演はしないにしてもね。保険かかってそう」
「嘘も方便の疑い濃厚だあ・・・」
一同、ふかぶかと頷く。
「・・・で、あんたも何か、目撃してるんでしょ」
ワンレンが、お嬢様風に向き直って、促す。
「うふふふふ」
「なにその含み笑い。かわいい顔してヤラシイ」
「ついに見ちゃった、ってとこじゃない?決定的な感じの」
「決定的って」
「キスしてた、とかね」
「うわー、さすが姉御。さらっと言っちゃった」
「嘘お」
「いいや、無いとはいえない」
「・・・ちょっと待ってよ、殿下への尊敬が揺らぎそう・・・」
「なんで揺らぐの。保守的なのは構わないけど、偏見は感心しないな」
お嬢様風は、ガヤガヤと、騒然とする席上、かわいく咳払いをして、
「うん、見ちゃったって言うか・・・聞いちゃったのよね」
「「「ええっ?」」」
皆の鋭い視線を一身に集めて、ちょっと臆しながら
「3時のお茶を、お下げしようと思って行ったらね・・・
もうね、お色気たっぷりな声でね、先生の名前を呼んでる殿下。腰にキた」
「きゃぁ」
「どこでっ、ねえ、どこで?」
「暖炉のある部屋」
「あーっ、あの長椅子のとこ?よく仲良く座ってるもんね」
「扉から遠くて、ちょっと死角なんだよねー」
「・・・次からあの部屋を正視できないかも・・・」
「ノックしたんでしょ」
「もちろんよ。だからもう無人かと思って、『失礼しまあす』って、言わなかったの」
「もう聞こえてない情況だった、ってこと?」
勝手知ったる邸の中を想像して、一同、いやが上にも盛り上がる。
「それから、『ちゅ』どころじゃない、映画みたいな、すっごく情熱的なリップ音が延々と・・・」
「えーっ」
「やっぱり」
「まさか、そこでそのまま・・・!」
「さすがに皆様ご在宅だったしー、そこまでだったみたいなんだけどね」
「『そこまで』でも、充分じゃない。それ以上の関係なの既に?」
「だって、これがまたあの物静かな先生と思えないような、
うろたえた甘ーい囁き声、というより喘ぎ声で、『いけません』とか」
「とか?」
「わ、先生ったら、初めてじゃないってムード・・・」
「煽ってる・・・って、分かってないね、先生」
「天然なんだと思う」
「でね、『毎日では身が持たぬのであろう、分かっておる、しばし許せ』とか」
「明らかに一線越えてる!越えてなきゃ言えない!」
「立ち聞き!服務規程違反スレスレ」
「不可抗力よ、わざとじゃないんだもーん」
「しっかり聞いてるし。覚えてるし」
「・・・殿下って、ああ見えて、お盛んなんだぁ・・・」
「でもっ、そう聞こえただけでしょ、そうじゃないかもしれない・・・でしょ」
「まあ、いいんじゃないのお?殿下がお幸せなら、それでさ」
一押しは趙さまだが、公叔も敬って淡く惹かれていたワンレンを、お局が慰める。
「趙さま・・・つくづく大変なかたにお仕えしちゃってる訳ね」
「何かと気苦労が増えちゃったかもよ。若白髪になったらどうしよう」
「大丈夫っしょ、爽やかな笑顔で万事こなしちゃってるんでしょ。そこが素敵なのよねー」
「これで恋愛に目覚めてくださったらいいんだけどね。仕事一筋なんだもんなぁ」
今まで何箱贈ったのか、お局が溜息混じりに遠い眼をする。
「そのためにも、アタシは、もうちょっと殿下が先生に
公然とアンナコトやコンナコト、しちゃったらいいんだと思う」
眼鏡っ子が、かなり真顔で爆弾発言をした為に、ますます座は盛り上がって、
二次会、三次会へ突入する有様だった。
2月14日の女子会の肴にされていることを、彼も先生も知らない。