おお、もう3時か。早いのう。
ほう、今日は龍井、いや、日本茶か。
日本茶は、色が美しい。実に和むのう・・・。
菓子も、細心で季節感というものがある。
あ、孔明はどうしておる? このあと持ってゆくのか、ぬるめにとな?
はは、よう分かっておるの。
いやいや、あれと一緒に菓子など食うたりしては、
このあとの署名が必ず滞るでな、
今日は、この書類の山がなくなるまでは、
書斎を出ぬつもりじゃ。
ときに、君は時々、勤めに来ているが、日本の娘であろう?
中国語が実に流暢だが、物腰が、我々中国人とは、ちと違うて柔らかい。
・・・ほほう、書道の留学中とな。殊勝じゃの。
そうじゃ、孔明も見事な手蹟じゃ。
茶を勧めてやるときにでも、ちと話してみるとよい。
あれは、そういったことが好きじゃ。
きっと耳寄りな話も聞けようぞ。
なに、遠慮することは無い。問うてみよ。
ちょっと内気だがな、興趣を誘われると口数が多くなるで、
話が弾もうぞ。
しかし、日本からとは、遠いのう。
かわいい子には旅をさせよとは言うが、
お国許の親御さんは、ご心配であろう。
春節の休みだけでなく、なるべく顔を見せに帰るがよいぞ。
ほう?
これが茶柱というやつなのか?
縁起がよいのか。面白いのう。
何? 寝ていてはだめなのか? 立って浮かんでおらぬと?
…君らは毎日のように飲むのだから、よく見るのではないか?
そうでもないのか? 年に何度かとな?
珍しいことなのだな。だから貴ばれるのかな。
儂は、運だけは人一倍じゃからの。ハハハ。
うん? 何じゃ?
”茶柱ごときに御運をお使い遊ばしますな”と?
・・・さすがは錦官城じゃのう、
我らの母国語は、日本語ほどには敬語というものが
厳格に決められているわけではないが。
ちょっと今、どこぞの君主になったような気分じゃよ。
君は、勉強熱心なのだな。
少年易老、学難成。大いに励みたまえ。
儂は、よい学生ではなかった。悔やまれる。
ところで日本といえばフジヤマ、温泉だが、
ごほん・・・ちと折り入って、オフレコで聞きたいのだがな、
日本の温泉には家族湯という、実に羨ま怪しからんものが
存在するとはまことか。
何っ!
やはり、まことなのか。
君ら日本人は、何ゆえ、公然と、そのような施設を好んで持つのだ。
需用はひとつではない?
他にどんな需用があるというのだ。
ふむ?
乳幼児連れ、腕白盛りの子連れ、高齢者連れの親孝行旅、
「自分にご褒美」の、温泉付き客室でエステ三昧とな?
・・・わからん国じゃのう。
ご褒美とやらならば、仲間と寄り集まり、
美味い飯を大勢で鱈腹に食った方が、楽しかろう?
”いまや「おひとりさま」の時代”とな?
日本は、大家族はもはや珍しいお国柄とは聞いておるが、
一人は淋しいぞ。第一、飯が不味いぞ。
むむう、君はまだ若いのだから、
おひとりさま、とやらを決め込まずとも良かろうに。
伴侶を得るとは、まことに良いことであるぞ。
喜びは倍以上に、悲しみは半分以下になる。
馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、じゃ。
不思議といえばな、飯を食ったその部屋に、布団を敷いて寝るという、
これはどうも、儂ら外国人には慣れんでな、
そこが社寺であったり、例えば一日ぐらいならば、
いわゆるジャパニーズリゾートというものを
体験してみたいとは思うが、寛げないような気もしてな。
ほう? 和洋室?
タタミの部屋に、ベッドルームがついておるのか。
そのような、いいとこ取りな構造の部屋まであるとは。
日本人は、痒いところに手が届くというか、細心というか。
そこが、君ら日本人の得手のひとつじゃな。
そうじゃの、いつの日か、次回日本へいったならば、
その、温泉とやらに是非行ってみたいと思いながらもな。
機会に恵まれんのだ。
今の流行りはユフイン? とな? どう書くのじゃ。
湯王の湯に、英布の布、国務院の院。
ほう、なかなかの命名ではないか。覚えやすい。
どこじゃそれは。なんじゃ、オオイタケン?
東京には温泉はないのか?
そうじゃな、日本は火山国じゃから、
温泉という天然資源に恵まれておるのだったな。
となれば、平野部では難しいことで、自然、山沿いということに
なるのであるな。
ハコネ?
おお、聞いたことはあるぞ。
場所によっては、フジヤマも見えるのか。実によいのう。
いつが、よいのかな。
世界中、どこでも春と秋は行楽シーズンというものだが。
混み過ぎるのは、いかんな。あれは、人込みが苦手だからのう・・・。
シロフジ? それは何かな?
冠雪したフジヤマかのこととな。ああなるほど、
冬も良いな。温泉ならば尚更であろうな。
そうだな、ゆっくり二泊か三泊ぐらいは、したいものだな。
眺望のよいところには展望大浴場がつき物か?
それもだな、どうも馴染まんのだよ。
君らは邪念がないのだろうかな、
儂はどうも、その、一度に何十人も共に入浴できるという
その状況を思うと、なんとのう、な。落ち着かぬ。
しかも、あれを連れてみよ、あれを・・・
(衆目からどう隠そうか、もう雑念だらけで風呂どころではなかろ・・)
おお、口が滑ってしもうた。こちらのことだ。
それでその、シロフジを眺めながら、何処へもゆかず、
のんびりと、一日中、誰にも邪魔されずに、あれを独占してだな・・
いや、その為には、あ奴らをスキーにでも行かせてしまわねばならん。
と、いやいや、こちらのことだ。
む? スキーならば、北海道の雪が日本一とな?
それでっ、北海道にも温泉はあるのか?
ほうほう、その他には?
・・・いかに先生が猫舌でも、
これは無いだろう、というぐらいに、
折角、上手に淹れたもう一服の玉露は冷めてしまい、
ジャパニーズガールはもう一度、キッチンへ戻ったのだった。
ほう、今日は龍井、いや、日本茶か。
日本茶は、色が美しい。実に和むのう・・・。
菓子も、細心で季節感というものがある。
あ、孔明はどうしておる? このあと持ってゆくのか、ぬるめにとな?
はは、よう分かっておるの。
いやいや、あれと一緒に菓子など食うたりしては、
このあとの署名が必ず滞るでな、
今日は、この書類の山がなくなるまでは、
書斎を出ぬつもりじゃ。
ときに、君は時々、勤めに来ているが、日本の娘であろう?
中国語が実に流暢だが、物腰が、我々中国人とは、ちと違うて柔らかい。
・・・ほほう、書道の留学中とな。殊勝じゃの。
そうじゃ、孔明も見事な手蹟じゃ。
茶を勧めてやるときにでも、ちと話してみるとよい。
あれは、そういったことが好きじゃ。
きっと耳寄りな話も聞けようぞ。
なに、遠慮することは無い。問うてみよ。
ちょっと内気だがな、興趣を誘われると口数が多くなるで、
話が弾もうぞ。
しかし、日本からとは、遠いのう。
かわいい子には旅をさせよとは言うが、
お国許の親御さんは、ご心配であろう。
春節の休みだけでなく、なるべく顔を見せに帰るがよいぞ。
ほう?
これが茶柱というやつなのか?
縁起がよいのか。面白いのう。
何? 寝ていてはだめなのか? 立って浮かんでおらぬと?
…君らは毎日のように飲むのだから、よく見るのではないか?
そうでもないのか? 年に何度かとな?
珍しいことなのだな。だから貴ばれるのかな。
儂は、運だけは人一倍じゃからの。ハハハ。
うん? 何じゃ?
”茶柱ごときに御運をお使い遊ばしますな”と?
・・・さすがは錦官城じゃのう、
我らの母国語は、日本語ほどには敬語というものが
厳格に決められているわけではないが。
ちょっと今、どこぞの君主になったような気分じゃよ。
君は、勉強熱心なのだな。
少年易老、学難成。大いに励みたまえ。
儂は、よい学生ではなかった。悔やまれる。
ところで日本といえばフジヤマ、温泉だが、
ごほん・・・ちと折り入って、オフレコで聞きたいのだがな、
日本の温泉には家族湯という、実に羨ま怪しからんものが
存在するとはまことか。
何っ!
やはり、まことなのか。
君ら日本人は、何ゆえ、公然と、そのような施設を好んで持つのだ。
需用はひとつではない?
他にどんな需用があるというのだ。
ふむ?
乳幼児連れ、腕白盛りの子連れ、高齢者連れの親孝行旅、
「自分にご褒美」の、温泉付き客室でエステ三昧とな?
・・・わからん国じゃのう。
ご褒美とやらならば、仲間と寄り集まり、
美味い飯を大勢で鱈腹に食った方が、楽しかろう?
”いまや「おひとりさま」の時代”とな?
日本は、大家族はもはや珍しいお国柄とは聞いておるが、
一人は淋しいぞ。第一、飯が不味いぞ。
むむう、君はまだ若いのだから、
おひとりさま、とやらを決め込まずとも良かろうに。
伴侶を得るとは、まことに良いことであるぞ。
喜びは倍以上に、悲しみは半分以下になる。
馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、じゃ。
不思議といえばな、飯を食ったその部屋に、布団を敷いて寝るという、
これはどうも、儂ら外国人には慣れんでな、
そこが社寺であったり、例えば一日ぐらいならば、
いわゆるジャパニーズリゾートというものを
体験してみたいとは思うが、寛げないような気もしてな。
ほう? 和洋室?
タタミの部屋に、ベッドルームがついておるのか。
そのような、いいとこ取りな構造の部屋まであるとは。
日本人は、痒いところに手が届くというか、細心というか。
そこが、君ら日本人の得手のひとつじゃな。
そうじゃの、いつの日か、次回日本へいったならば、
その、温泉とやらに是非行ってみたいと思いながらもな。
機会に恵まれんのだ。
今の流行りはユフイン? とな? どう書くのじゃ。
湯王の湯に、英布の布、国務院の院。
ほう、なかなかの命名ではないか。覚えやすい。
どこじゃそれは。なんじゃ、オオイタケン?
東京には温泉はないのか?
そうじゃな、日本は火山国じゃから、
温泉という天然資源に恵まれておるのだったな。
となれば、平野部では難しいことで、自然、山沿いということに
なるのであるな。
ハコネ?
おお、聞いたことはあるぞ。
場所によっては、フジヤマも見えるのか。実によいのう。
いつが、よいのかな。
世界中、どこでも春と秋は行楽シーズンというものだが。
混み過ぎるのは、いかんな。あれは、人込みが苦手だからのう・・・。
シロフジ? それは何かな?
冠雪したフジヤマかのこととな。ああなるほど、
冬も良いな。温泉ならば尚更であろうな。
そうだな、ゆっくり二泊か三泊ぐらいは、したいものだな。
眺望のよいところには展望大浴場がつき物か?
それもだな、どうも馴染まんのだよ。
君らは邪念がないのだろうかな、
儂はどうも、その、一度に何十人も共に入浴できるという
その状況を思うと、なんとのう、な。落ち着かぬ。
しかも、あれを連れてみよ、あれを・・・
(衆目からどう隠そうか、もう雑念だらけで風呂どころではなかろ・・)
おお、口が滑ってしもうた。こちらのことだ。
それでその、シロフジを眺めながら、何処へもゆかず、
のんびりと、一日中、誰にも邪魔されずに、あれを独占してだな・・
いや、その為には、あ奴らをスキーにでも行かせてしまわねばならん。
と、いやいや、こちらのことだ。
む? スキーならば、北海道の雪が日本一とな?
それでっ、北海道にも温泉はあるのか?
ほうほう、その他には?
・・・いかに先生が猫舌でも、
これは無いだろう、というぐらいに、
折角、上手に淹れたもう一服の玉露は冷めてしまい、
ジャパニーズガールはもう一度、キッチンへ戻ったのだった。