「大人の情景」 むきになって

2008/11/13

21cパラレル(大人の情景 劉公叔の物語(21世紀)

「戯れなどではない。儂は」
言わせるのか、この天才は、言わねばわからないのか。

彼は業を煮やして、
「だが、これを言っては、儂は卑怯であろう」
お前は表向き、庇護されている以上、やむなく靡くか、去るか、
いずれかしか道はあるまい。と、呻くと、
「儂は、あの日、お前に一目惚れしたのだ。全ての意味でだ」
ひといきに、言ってしまった。

墓まで持っていっても構わぬと思っていたこの言葉を、
このように乱暴に言いたくはなかった。

もし、口にすることがあるならば、
口説き落とせるかどうか、結果は問わず、この人を
腕の中にして、髪をなでながら、囁きたかった。

「なぜ、儂を追い詰める。賢いお前が」
「公叔こそ、わたくしを追い詰めておいでです。
 これでは、何とお答えしても、お信じいただけません。たとえ」

言葉を呑みこんで、邸に来たばかりの頃に
書いていた譜面を一枚、公叔の寛い胸に押し付けるようにして、
泣きそうな貌をして、先生は部屋へ籠もってしまった。



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