あのーぅ……。
臥龍先生。
せっかくお勧めくださる酒のまえに、ちとお尋ねいたしますが、
この船は先ほどから、北へ向かっているように思うのは、
気のせいですよねっ?
えっ……。
”其の通りです”
って。
まさか。
あは、あははは。
騙されませぬぞ。
いつもの御冗談ですよねっ?
……其のお顔は。其の眼光は。
一見、穏やかに見えて、
何もかもお見通しで何かお考えのときの。
嘘、じゃ。
嘘じゃっ、嘘じゃと言うてください。
いつものご冗談だと、言うてください。
引き返してくださいっ。
お願いですっ。
今すぐにっ!
お気が違っているとしか思えませんっ!
……おお、我が主公、大都督、吾れ、
不才ながら、生き恥を晒すものではございませぬ。
断じて和睦などなさいませぬよう。
先生、剣を貸し給え。
投降するなら、わたしを首にして持っていかれよ。
……え? 剣などないですと?
そうですな。
投降する者に武器など無用ですな。
……はは・・は……。
ではこの長江に身を投げるといたそう。
観念して、今生の別れに一献だけお付き合いいたす。
……?
太鼓など叩いて、合図にしては物物しや。
これでは夜襲と間違えられま……
!
わっ!
わぁっ!!
臥龍先生、臥龍先生っ!
箭の雨ではありませんかっ!
どういうことですかっ!
曹軍に降るもお嫌で、壱拾萬本の箭が調達できずに
我が軍に居るもできなくなるこのうえは、
夏口の皇叔の御許へ逃げ帰ってしまえば、
お命だけは助かる話ではありませんかっ!
なにを好き好んで、このわたしと、
心中めいた事をなさるのですかっ!
巻き添えは御免ですぞっ!
わたしは泳いででも帰りますぞっ!
は?
”好き好んでなどおりません”
お嫌いで結構っ。
え?
今は泳ぐ前に射られるのが関の山?
もうしばらく待てと?
待ってどうなさるのだ。
同じ死ぬなら、一歩でも父祖の地に近いところへ沈んで見せますぞ。
ああ、あの時、いっそ先生は、
夏口へお帰りになってしまえば良かったのだ。
皇叔だって、先生を連れ帰ろうとなさっていたではありませんか。
”たとえば、わたくしが、隠密裏に呉侯を害する事を謀ったとして、
事の成否にかかわらず、それでも貴兄は
朋友として遇してくださいますか”
ですと?
ぐぅ……究極の問いにして、痛いところを。
先生、あのことは苦衷をお察しのうえ、既にお許しくださったはず。
今更むしかえされるとは、狡い。
あの時、先生が船に乗ってしまおうとさるなら、
孫劉の同盟のためにも、わたしの名誉にかけて、
駆け出していってお引き止めする覚悟で、
物陰から、しっかり見ていたのですぞ。
先生は、いつもの、お人が悪いほどの高踏ぶりで、
あっさりと皇叔を突き放して、諭して、お帰しして
おしまいになるに決まっている、と安心していたのに、
それがどうですか、あれではまるで、春宵の短きを惜しむように、
長長と……その……ごにょごにょ……ごほん。
お供の兵たちが、あの時、
糊で貼り付けたようになっていたのを
ご存知ありますまい。
……かくいうわたしも、気を揉みながら足がべったり貼りついて、
飛び出す機会を逸してしまったのですけれど。
先生。
ちょっと。
そんなに忙しなく扇ぐと、料理が冷めます。
何じゃ、
なんじゃ何じゃっ?
船が
傾いていくっ!
転覆しますぞっ!
正気の沙汰とは思えんっ!
後世の筆に、
『粛、而シテ此ノ如ク長江二溺死ス』など、
書かれてたまるもですかっ!
先生、先生だって、愚者の謗りを免れませんぞっ!
大法螺吹いた上に長江で立ち往生、だなんて。
臥龍の名が泣きますぞっ!
どうしてあの時、せめて大人しく
夏口に帰ってしまって下さらなかったのか。
お恨み申しますぞっ。
皇叔も皇叔だ。
そんなにお大事な軍師なら、
いくらでも口実はおありではないか。
あの時、先生を腕にしたまま、
船にお乗りになれば良かったのだ。
そうすれば、皇叔だとて、
先生がこんな大阿呆だったと、ご生涯知らずに済んだのに。
え?
”わたくしが其の大阿呆だということを、
我が君は疾うに御存知です”
ですと??
そんなばかな。
先生、こんなときに、
よくも酒に酔うたりおできになりますな。
何度も大都督の招宴に応じて、
憚りながら、先生のお身柄の安全のためにも、と、
ご一緒しておりましたが、
いつも色にもお出しにならないではありませんか。
何がそんなにお楽しいのですか。
わたしは、青ざめてすらいようというのに。
主公に先生を堂々とお引き合わせした面目が。
先生を無事にお還しするという、皇叔とのお約束が。
だが、先生と死んでしまえば、都督はお喜びかも・・・。
はっ、私情に流されるな。
この際、売国奴と言われかねない、
間抜けで愚かなこの死に様が我慢ならん。
末代までの恥辱。
ああ、どうして寸鉄も帯びずに来てしまったのか。
何ですと?
”そこが貴兄のよいところ”
ふん、
事ここに至っては、嬉しくもなんとも御座らん。
お……やっ?
なにやら、随分と飲み食いしやすく……
・・あっ。
……ああっ!
こういうことだったのでしたか。
先ほどまでの悪口雑言、どうかお許しください。
我が呉国を思う一念に免じて、どうか。
この船団は、きっと針山のようになっていることでしょうな。
さあさあ、臥龍先生、教えてくださいよぉ。
どうして今日、深い霧が出ると御存知だったのですか?
ささ、箭も調達できたことですし、安心して
大いに飲みましょう。お過ごしなさいませ。
序でに、冷や汗かかされたぶん、
皇叔と先生のなれそめも、ぜひ伺いたいものですな。
もちろん、大都督には誓って内緒にいたします。
信じてくださいよぉ。
え?
”どちらの方をですか?”
って?。
霧のことですが。
あちらもこちらもないですよ、五里霧中だったじゃありませんか。
はっ、
まさかっ、
まさかとは思いますが、先生と皇しゅ・・・・
臥龍先生。
せっかくお勧めくださる酒のまえに、ちとお尋ねいたしますが、
この船は先ほどから、北へ向かっているように思うのは、
気のせいですよねっ?
えっ……。
”其の通りです”
って。
まさか。
あは、あははは。
騙されませぬぞ。
いつもの御冗談ですよねっ?
……其のお顔は。其の眼光は。
一見、穏やかに見えて、
何もかもお見通しで何かお考えのときの。
嘘、じゃ。
嘘じゃっ、嘘じゃと言うてください。
いつものご冗談だと、言うてください。
引き返してくださいっ。
お願いですっ。
今すぐにっ!
お気が違っているとしか思えませんっ!
……おお、我が主公、大都督、吾れ、
不才ながら、生き恥を晒すものではございませぬ。
断じて和睦などなさいませぬよう。
先生、剣を貸し給え。
投降するなら、わたしを首にして持っていかれよ。
……え? 剣などないですと?
そうですな。
投降する者に武器など無用ですな。
……はは・・は……。
ではこの長江に身を投げるといたそう。
観念して、今生の別れに一献だけお付き合いいたす。
……?
太鼓など叩いて、合図にしては物物しや。
これでは夜襲と間違えられま……
!
わっ!
わぁっ!!
臥龍先生、臥龍先生っ!
箭の雨ではありませんかっ!
どういうことですかっ!
曹軍に降るもお嫌で、壱拾萬本の箭が調達できずに
我が軍に居るもできなくなるこのうえは、
夏口の皇叔の御許へ逃げ帰ってしまえば、
お命だけは助かる話ではありませんかっ!
なにを好き好んで、このわたしと、
心中めいた事をなさるのですかっ!
巻き添えは御免ですぞっ!
わたしは泳いででも帰りますぞっ!
は?
”好き好んでなどおりません”
お嫌いで結構っ。
え?
今は泳ぐ前に射られるのが関の山?
もうしばらく待てと?
待ってどうなさるのだ。
同じ死ぬなら、一歩でも父祖の地に近いところへ沈んで見せますぞ。
ああ、あの時、いっそ先生は、
夏口へお帰りになってしまえば良かったのだ。
皇叔だって、先生を連れ帰ろうとなさっていたではありませんか。
”たとえば、わたくしが、隠密裏に呉侯を害する事を謀ったとして、
事の成否にかかわらず、それでも貴兄は
朋友として遇してくださいますか”
ですと?
ぐぅ……究極の問いにして、痛いところを。
先生、あのことは苦衷をお察しのうえ、既にお許しくださったはず。
今更むしかえされるとは、狡い。
あの時、先生が船に乗ってしまおうとさるなら、
孫劉の同盟のためにも、わたしの名誉にかけて、
駆け出していってお引き止めする覚悟で、
物陰から、しっかり見ていたのですぞ。
先生は、いつもの、お人が悪いほどの高踏ぶりで、
あっさりと皇叔を突き放して、諭して、お帰しして
おしまいになるに決まっている、と安心していたのに、
それがどうですか、あれではまるで、春宵の短きを惜しむように、
長長と……その……ごにょごにょ……ごほん。
お供の兵たちが、あの時、
糊で貼り付けたようになっていたのを
ご存知ありますまい。
……かくいうわたしも、気を揉みながら足がべったり貼りついて、
飛び出す機会を逸してしまったのですけれど。
先生。
ちょっと。
そんなに忙しなく扇ぐと、料理が冷めます。
何じゃ、
なんじゃ何じゃっ?
船が
傾いていくっ!
転覆しますぞっ!
正気の沙汰とは思えんっ!
後世の筆に、
『粛、而シテ此ノ如ク長江二溺死ス』など、
書かれてたまるもですかっ!
先生、先生だって、愚者の謗りを免れませんぞっ!
大法螺吹いた上に長江で立ち往生、だなんて。
臥龍の名が泣きますぞっ!
どうしてあの時、せめて大人しく
夏口に帰ってしまって下さらなかったのか。
お恨み申しますぞっ。
皇叔も皇叔だ。
そんなにお大事な軍師なら、
いくらでも口実はおありではないか。
あの時、先生を腕にしたまま、
船にお乗りになれば良かったのだ。
そうすれば、皇叔だとて、
先生がこんな大阿呆だったと、ご生涯知らずに済んだのに。
え?
”わたくしが其の大阿呆だということを、
我が君は疾うに御存知です”
ですと??
そんなばかな。
先生、こんなときに、
よくも酒に酔うたりおできになりますな。
何度も大都督の招宴に応じて、
憚りながら、先生のお身柄の安全のためにも、と、
ご一緒しておりましたが、
いつも色にもお出しにならないではありませんか。
何がそんなにお楽しいのですか。
わたしは、青ざめてすらいようというのに。
主公に先生を堂々とお引き合わせした面目が。
先生を無事にお還しするという、皇叔とのお約束が。
だが、先生と死んでしまえば、都督はお喜びかも・・・。
はっ、私情に流されるな。
この際、売国奴と言われかねない、
間抜けで愚かなこの死に様が我慢ならん。
末代までの恥辱。
ああ、どうして寸鉄も帯びずに来てしまったのか。
何ですと?
”そこが貴兄のよいところ”
ふん、
事ここに至っては、嬉しくもなんとも御座らん。
お……やっ?
なにやら、随分と飲み食いしやすく……
・・あっ。
……ああっ!
こういうことだったのでしたか。
先ほどまでの悪口雑言、どうかお許しください。
我が呉国を思う一念に免じて、どうか。
この船団は、きっと針山のようになっていることでしょうな。
さあさあ、臥龍先生、教えてくださいよぉ。
どうして今日、深い霧が出ると御存知だったのですか?
ささ、箭も調達できたことですし、安心して
大いに飲みましょう。お過ごしなさいませ。
序でに、冷や汗かかされたぶん、
皇叔と先生のなれそめも、ぜひ伺いたいものですな。
もちろん、大都督には誓って内緒にいたします。
信じてくださいよぉ。
え?
”どちらの方をですか?”
って?。
霧のことですが。
あちらもこちらもないですよ、五里霧中だったじゃありませんか。
はっ、
まさかっ、
まさかとは思いますが、先生と皇しゅ・・・・