君王寵用在一身 (くんのうのちょうよういっしんにあり)

2010/07/20

3世紀被害譚SS

ちょっと、そこのあなた。
そう、あなたよ。こっちへいらっしゃい。

……なにを怖がっているの?
ああ、これね、薙刀の稽古をしていたのよ。
あなたを脅かすつもじゃなかったのよ。安心してちょうだい。

さあ、ここに座って、ちょっと話を聞かせて頂戴。
余計な遠慮しないで。
そこだと、話が遠いじゃないの。
……あたくし、あまり気が長い方ではないのよ。
よろしい。
あなた、奥向きに仕えて、長いのでしょう?
ここのところ、調べさせていただいたのですわよ。
ずばり聞きますけど、
殿のお渡りって、前の夫人のときから、こんなに少ないわけ?

……どうして、あなたが赤くなるのよ。
ここに来てから、あたくし、ほとんど夫の顔をみてないのだわよ。
べつに夜お会いしなくても、薙刀の稽古に付き合ってくださっても、
良さそうじゃない。

え……? 月に2、3度?
今と同じじゃないの。
ええ、あたくしも調べさせたのですよ。
夫は、ほとんど表で眠って、奥へはお越しにならないのよ。
……江東では、一日中ご一緒だったのに。

女の勘ですけれどね、
あのかた、孔明とやらいう軍師が居なければ、
昼も夜も明けないとは、一体どういうことかしら。

え? わからない?
あなたの目は節穴なの?
あの孔明とやらいう軍師のこと、どう思うのです。
え?容姿端麗?
何を言い出すかと思えば。
あなた周兄を知らないからそんなことを言うのよ。
周兄に比べれば、どんな殿方も十人並みだわよ。

そうじゃないのよ、あの軍師の、
あたくしの夫を見る目といったら、
何です、あの、うっとりと、見惚れているような瞳は。
あのかたもあのかたよ。目も、挙動も、
あの軍師を追いかけっぱなしじゃないの。

ええ、昼間、いちど、稽古をねだりに行きましたのよ。
兄上だったら、眉間に皺を寄せて煩そうになさりながらも、
手強い名将を少しだけお貸しくださったり、
時には、自らお相手してくださることもあったのに。

「やあ、奥か、薙刀も良いが、散歩もよいぞ、
 この城は狭いが、庭の美しいところはたくさんある。
 女官に案内してもらうがよい。
 そうじゃ、あとで美味い菓子を届けよう」
なーんて、優しげにかわすと、また孔明とやらいう軍師と、
あたくしには世間話としか思えない、今でなくては
ならないとは到底かんがえられないことを、
延々とお話しつづけているのよ。

今になってようやくわかったわよ。
あの戦いの前に、あの軍師、江東にやってきたでしょう?
いつもにこにこしながら、なんだか面白がっているような、
見かけるたびに、嫌な感じがしたのよ。

周兄が「またしても」云々と言っていたのを
よく小耳にはさんだけど、
絶対に、あの軍師の差し金だったのよね、いろいろと。
なんか虫の好かない外国の軍師だと思っていたけど、
こっちに嫁いでみれば、どうでしょう。
兄上や周兄に見せていたあの顔は、嘘?

こちらにも忠義の臣は多いけれど、
あの者ほど、夫の信任を得ている者は、いないわよ。
あれは、夫のために、何か企んで、面白がっていたに違いないわ。

何ですって。
ちょっと。
本当なの?
一緒に寝ているですって?
なあに、「寝ているではなく眠っている」?
大きな違いには思えないわよ。聞き捨てならなくてよ。

あたくしと、あの軍師と、一体どっちが大事なのかしら。
ああ、亡きお父様のお話を、ずいぶん長いことお聞きしていないというのに。
口惜しいけど、なんだか腹の虫がおさまらないわ。
こんなとき、下世話ではどうするものなのかしら。

え?実家に帰る?

……実家、ねぇ……。


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うを と この夫人についての おとぎばなしは
閨中君王想臥龍』もご覧いただければ幸甚です。
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